個別協議方式による開発コントロールに実態と課題

書誌事項

タイトル別名
  • A study on the development control through the negotiation procedure
  • 個別協議方式による開発コントロールの実態と課題--真鶴町まちづくり条例の美のリクエスト方式を事例として
  • コベツ キョウギ ホウシキ ニ ヨル カイハツ コントロール ノ ジッタイ ト カダイ マナツルマチ マチヅクリ ジョウレイ ノ ビ ノ リクエスト ホウシキ オ ジレイ ト シテ
  • 真鶴町まちづくり条例の美のリクエスト方式を事例として
  • Case study on the method of the "request of beauty" by Manazuru town's machizukuri ordinance

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抄録

本研究は、レビュー型の開発コントロール方式の仕組みをそなえたまちづくり条例の代表的事例であり、一定の運用実績もある「真鶴町まちづくり条例」を取り上げ、条例の運用実態の分析から、事前確定的な具体的な基準がなく個別の協議を通じて当該開発固有の最適解を求めるような開発コントロール方式の、制度設計上の課題を明らかにすることを目的としている。真鶴町まちづくり条例は、ゾーニング型の開発の基準としての「土地利用規制規準」のほか、地域らしさを「美の原則」という抽象的な基準として定めており、協議過程においてこれを具体的な要求事項として展開し、個別の開発に適用する手続きを備えている。条例に規定された「場所・格づけ・尺度・調和・材料・装飾と芸術・コミュニティ・眺め」の8つの美の原則には、規則によりその基準となる「美の基準」が、69の「キーワード」として定められており、美の原則に基づく協議は、このキーワードを使用した「美の基準リクエスト・美の基準調書」(以下、美のリクエスト)を通じて実施される。美のリクエストは、条例適用開発のうち着工に至らなかった開発も含めて 53件が作成されており、美のリクエストには1件あたり最大 31項目、最小4項目のキーワードが使用されていた。平均は約 13項目で、これは全キーワードの約5分の1にあたり、7項目のキーワードが美のリクエストで一度も使用されていない。真鶴町の条例では、用途・容積率・建物高さ・植栽面積などの「ゾーニング型」の基準については「土地利用規制規準」「条例施行基準」として事前確定的に定める一方、こうした事前確定的基準によっては達成しにくい「美」の実現については、事前に抽象的な「美の基準」を定めておき、開発協議の際に、行政側が個々の開発の性質と場所の特性に応じた具体的な「提案」を提示し、事業者側はこの「提案」に対する特定の実現法を「取り組み」として明示する、という「レビュー型コントロール」の過程(「美のリクエスト」方式)を通じて達成する仕組みとなっており、この真鶴町の「美のリクエスト」方式では、個々の開発協議の過程において、その都度、その場所に固有な具体的な提案を公共側が創造する手続きを制度化している点に本質的な特徴がある。この方式の制度的実効性の評価においては、公共側が創造的に提示すべき「提案」の有効性がどのようにして確保されるのか、また、この「提案」に対する「取り組み」の有効性・適合性・実現性がどのようにして確保されるのかが重要であり、この観点から真鶴町の条例について考察すると、以下の点が指摘できる。 第1は、「美のリクエスト」が適用される開発が限定されていることである。現行では、「美のリクエスト」が適用される条例適用対象の大部分が宅地造成であり、「提案」の対象もよう壁・植栽等に限定されている。また、宅地分譲後に建設される住宅は自己居住用住宅扱いとなり、「美のリクエスト」が適用されない。一方、看板や工作物については、そもそも条例の対象外となっている。第2は、「美のリクエスト」の位置付けが曖昧であることである。「美のリクエスト」は建築確認申請等の法的手続きと連動しておらず、「取り組み」の空間への反映も、完成届を提出しない開発は確認がなされず、「取り組み」の実施に対する指導の契機もない。この「美のリクエスト」の曖昧さは、「取り組み」の実施主体を不明確にし、植栽の実施率を低下させる要因にもなっている。第3は「美のリクエスト」適用前の事前相談の存在である。町は、事前相談の段階で造成形状やよう壁の材料等、美のリクエストに基づく一般的要求事項を事業者に伝えている。ところが、この時点で事業者は開発に対して町の了解が得られたとの認識を持ちやすいため、事前相談時の要求事項は開発に反映されやすく、美のリクエストに基づく新たな提案は、事業者の対応が消極的になり、空間に反映されにくい状況が生じる。一方、美のリクエストでは、個別の開発に適用する「提案」が、行政担当者が自ら選択したキーワードに基づき作成されているため、担当者が「提案」作成において主観に陥ったり、恣意的・不公平な運用にならないかと常に不安を抱えることになり、作成される「提案」も、個別・具体的な対応を特定するようなものではなく、画一的・抽象的なものとなりやすい。したがって、このような仕組みにおいて「提案」が創造的に提示されるためには、その作成を担当者単独の作業とせず、多様な主体の参加によるものとすることが必要になる。真鶴町の事例からは、レビュー型コントロールでは、参加型・対話型の協議が「提案」「取り組み」の有効性を確保するうえで不可欠であることが示された。

収録刊行物

  • 都市計画論文集

    都市計画論文集 38.3 (0), 199-204, 2003

    公益社団法人 日本都市計画学会

被引用文献 (9)*注記

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参考文献 (6)*注記

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