日本における補習教育ビジネスの発展と地理学的課題

DOI
  • 土屋 純
    宮城学院女子大学・学芸学部・人間文化学科
  • 岡本 耕平
    名古屋大学・環境学研究科・地理学講座

書誌事項

タイトル別名
  • The Development of Compensatory Education Industries and the Geographical Themes

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抄録

はじめに<br> 学習塾や予備校などの補習教育産業は、受験競争の激化や家計所得の増加などを背景にして1970年代から大きく発展してきた。今日、景気低迷によって補習教育への家計支出は伸び悩んでいるが、それでも日本全国の中学生の約4分の3は学習塾に通っており、また、特に大都市圏では、私立高校生の塾通いが増加している。そうしたなか補習教育業界は、大手予備校への寡占化が進んでおり、中小の学習塾は、少子化のあおりを受けて厳しい淘汰選別にさらされている。<br> さらに、情報化は補習教育業界にも着実に進んでおり、サービスの供給チャネルの多様化をもたらしている。特に、大手予備校によるサテライト授業は、全国的な教育サービスの流通を可能にしており、その結果、大手予備校による地方の予備校、学習塾の系列化が進んでいる。一方で、小規模な学習塾は、大手に対抗するために個人指導を充実させるようになり、比較的裕福な世帯によって利用されている。<br> このように、補習教育は、中学生・高校生の日常生活に深く浸透し、しかもサービス受給の地域格差や企業チェーンの発展といった地理的問題を多分に含んでいる。そこで本研究では、補習教育ビジネスに対して、地理学がどのような課題を持つべきかについて議論したい。さらに事例として、高卒受験生だけでなく、現役中学生、高校生へのサービスを充実させつつある大手予備校の河合塾の動向についても概観し、研究可能性について検討したい。<br><br>地理学的課題<br> 本研究では、地理学的課題として、経済地理学的課題、社会地理学的課題、時間地理学的課題の3つを指摘したい。<br> 経済地理学的課題としては、近年の補習教育ビジネス業界の発展について、そのサービス供給のメカニズムについて検討する必要がある。特に、大手予備校による校舎の立地展開、サテライトによる全国展開について検討する必要がある。<br> 社会地理学的課題としては、大都市を中心として進展している社会階層の二極化と、補習教育ビジネスの動向との関連について検討する必要がある。東京をはじめとする大都市圏では、高所得世帯を対象とした立地展開やサービス供給が進んでおり、極めて興味深い。<br> 時間地理学的課題としては、受験生の日常生活活動について検討する必要がある。高校生の放課後という時間を、さまざまな補習教育ビジネスが奪い合いの競争を展開しており、その結果、受験生を中心として生活の変化が見られるようになっている。さらに、その他の世帯構成員によるサポートも見逃せない。特に、親による送迎活動は、受験生にとって必要不可欠な要素となっている。<br><br>研究の試み?河合塾を例として?<br> 近年、河合塾では東京大都市圏において現役高校生向けの校舎を立地展開している。ここでは、上記の課題のうち経済地理学的課題と時間地理学的課題について、河合塾で得た資料に基づき研究を試みる。まず、東京圏における高校生人口、塾生の居住地などのデータから、GISを用いて校舎の立地展開について検討する。次に、塾生である高校生の1週間の生活時間調査データから、彼らの日常生活を検討する。<br> 研究結果については、発表時に詳しく述べたい。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205693529600
  • NII論文ID
    10012721274
  • NII書誌ID
    AA1115859X
  • DOI
    10.14866/ajg.2004s.0.47.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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