いかに披裂軟骨脱臼症の診断を正しく行うか?その基礎形態学的および臨床的研究

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タイトル別名
  • The Exact Diagnosis of Arytenoid Cartilage Dislocation: Morphological and Clinical Studies
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  • その基礎形態学的および臨床的研究

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抄録

披裂軟骨脱臼症は,その発症頻度は多くないものの,例えば気管内挿管などの喉頭内腔への鈍的損傷や医療行為に続発して起こることが多い。過去の報告例の多くは,主に病歴や,臨床症状,喉頭内視鏡所見によって経験的にその診断が行われていた傾向にある。また,CTなどの画像診断の有用性や,内喉頭筋の筋電図により反回神経麻痺と鑑別診断を行って診断するなどの報告もあるが,内喉頭筋の筋電図は必ずしも容易な検査ではなく,CT画像から喉頭の複雑な軟骨間の位置関係を理解することは一般耳鼻咽喉科医にとっては難しい。さらには,披裂軟骨の脱臼方向が前方なのか,後方なのかについての鑑別や,その診断に基づいた適切な整復の方法もいまだ確立されていない状況である。したがって,より確実で,かつ患者の負担の少ない診断方法の確立が必要である。<br>今回,われわれは解剖体から得られた摘出喉頭から披裂軟骨脱臼のモデルを作製し,これをもとに形態学的な研究を行った。前方脱臼モデルでは,声帯は弛緩した状態に陥っており,披裂軟骨筋突起を外側輪状披裂筋の走行方向に牽引し,披裂軟骨を内転させた状態にすると脱臼側声帯の弛緩はさらに強くなり,この時披裂軟骨は外上方へ変位し,声帯突起が正中方向に異常突出することが観察された。後方脱臼モデルでは,声帯全体が引き伸ばされ,緊張した状態にあった。披裂軟骨筋突起を外側輪状披裂筋の走行方向に牽引し,披裂軟骨を内転させた状態にすると,声帯はさらに緊張し,披裂軟骨が外上方に変位した。<br>次に,過去に披裂軟骨脱臼症と診断され,整復術が行われた症例(前方型10名,後方型6名)について,前述の形態学的研究の結果に基づくretrospectiveな検討を行った。ビデオ喉頭内視鏡検査では,前方脱臼の場合,脱臼側の声帯は弛緩した状態で,これが発声時にさらに強くなり,また声帯突起が正中方向に異常突出する。後方脱臼の場合には,声帯前後径は引き伸ばされ,緊張した状態にあり,これが発声時に強くなるように観察された。単音節/he/反復発声時の喉頭正面からのビデオX線透視画像では,前方脱臼の場合でも後方脱臼の場合でも,脱臼側の声帯が上外方に変位し,披裂軟骨の上部構造もこれに伴って変位することが確認された。輪状披裂関節付近の触診では,後方脱臼の場合に,同部の腫脹と圧痛を認めた。一方,CTでは,矢状断像で,後輪状披裂靭帯が描出されているスライスでは披裂軟骨脱臼の状態が描出され得たが,それ以外の部分,もしくは断層面では有意な所見は指摘し得なかった。これらの臨床例から得られた所見は,基礎形態学的研究の結果とよく一致していた。<br>以上のことより,披裂軟骨脱臼症の診断にあたっては,まず単音節反復発声時の喉頭正面からのビデオX線透視で,披裂軟骨脱臼の確認を行い,その後,喉頭内視鏡や輪状披裂関節の触診により,脱臼の方向を判定するのが最も容易で,確実,かつ侵襲の少ない診断方法であると考えられた。

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