MR撮像法を用いた3次元声道形状の計測

書誌事項

タイトル別名
  • Three-dimensional Measurements of Vocal Tract Shape by Using MRI
  • Cases with Tongue and Mouth Floor Resection
  • 舌・口底切除症例の検討

この論文をさがす

抄録

舌・口底切除症例の言語障害の原因を解明するためには変形した構音器官の形態を知る必要がある.近年, 磁気共鳴撮像法 (Magnetic Resonance Imaging : MR撮像法) によって構音時の声道形態を観察することが可能となった.われわれは前報においてMR撮像法を応用して健常例の3次元声道形状を解析し, 本法の有用性を報告した.今回は本法を, 切除範囲の異なる舌・口底切除症例に適応し, 声道形状の特徴および音響的特徴との関連について検討を行った.対象症例は舌・口底切除例10例であり, 口底切除例2例, 舌可動部半側切除例3例, 舌半側切除例1例, 舌亜全摘例4例である.再建材料は遊離前腕皮弁5例, 大胸筋皮弁2例, 腹直筋皮弁2例, 肩甲皮弁1例である.対照群として健常男性5名の結果と比較した.研究方法としてMR画像は, MAGNETOM VISION Ver.31 B (シーメンス社製) にてFisp 3 D法を用い, /ai/発音時の/i/発音開始からの21秒間を撮像した.MR撮像にあたり, 歯の形態を明瞭に描出するため, 造影剤を封入した歯冠プレートを作製した.得られた画像の分析は, 基準線として正中矢状面像から後鼻棘と大後頭孔後縁を結んだ線を規定し, 上顎中切歯歯頚部相当部を基準点として後鼻棘相当部に至るまでの5mm間隔の前頭断面を計測した.計測項目は (1) 声道断面積の変化, (2) 声道における狭窄部の位置および断面積, (3) 口蓋の前方, 中央, 後方部の声道断面積, (4) 声道形状であり健常群との比較検討を行った.音響分析法としては300~500Hzおよび1,500~3,000Hzの帯域に出現したスペクトル数および周波数スペクトルピーク値について健常例との比較を行った.その結果, 以下のような声道形状の特徴および音響的特徴が明らかとなった.MRI分析結果では, 1) 声道断面積の変化では (1) 口蓋中央部で減少し, 後方部にかけて増加する症例, (2) 口蓋の後方にかけて著しく増加する症例, (3) 後方部にかけて著しく減少する症例, (4) なだらかな症例がみられた.切除範囲別にみると, 舌可動部半側切除例では健常例に近い傾向であったが舌亜全摘例では (2) (3) (4) の症例が観察された.2) 最狭窄部の位置は (1) 口蓋中央部で狭窄部をつくる健常例に最も近い症例, (2) 口蓋前方部で狭窄部をつくる症例, (3) 口蓋後方部で狭窄部をつくる症例, (4) 狭窄部が存在しない症例の4つのタイプがみられた.切除範囲別にみると, 舌可動部半側切除例2例では健常例と同様, 中央部に位置し, 亜全摘例1例では健常例より後方部に位置し, その他の7例では前方に位置していた.3) 口蓋の3部位における声道断面積では舌可動部半側切除例2例で各部位とも健常範囲であった.一方, 他の症例では特に中央部, 後方部において健常例と異なる大きな断面積を示す症例が多かった.4) 声道形状の観察では健常例は対称的な楕円形を示し, 口蓋と舌の距離が短かった.舌可動部半側切除例では健常人と類似の傾向がみられた.その他の症例では多様な形状が観察された.音響分析結果では300~500Hzの帯域については口底切除例の1例, 舌可動部半側切除症例2例は健常範囲内であったが, その他の症例はすべて高い値であった.1,500~3,000Hzの帯域では舌可動部半側切除例3例および舌半側切除例1例において健常例と同様, 1つのピークが観察された.他の症例では2つのピークが観察された.1,500~3,000Hzの帯域の値は舌可動部半側切除例3例では健常範囲内であったが, その他は低い周波数値であった.ピークが2つの症例ではいずれも周波数値が低い傾向であった.これらの結果から, /i/発音時において音響的特徴が健常範囲にある声道形状の要因は1) 口蓋中央部付近にゆるやかな変化を示す部位が存在すること, 2) 狭窄部位が口蓋中央部に近いこと, 3) 狭窄部の断面積が健常範囲に近いこと, 4) 左右対称的な楕円形の声道形状を示すことであり, 音響的に1,500~3,000Hzにピークが2つ存在するような異常となる要因としては1) 口蓋中央部から後方部にかけて声道断面積の変化が著しく大きいこと, 2) 口蓋中央部の断面積が著しく広いこと, 3) 声道形状が著しく不整形であることなどが考えられた.これらの結果は言語障害を予防するための再建方法を考慮するために有用な示唆を与えるものと考えられる.

収録刊行物

被引用文献 (3)*注記

もっと見る

参考文献 (48)*注記

もっと見る

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ