血管新生阻害薬E7820による腫瘍周囲リンパ管の構築変化

  • 太田 敏博
    岩手医科大学歯学部口腔外科学第一講座
  • 藤村 朗
    岩手医科大学歯学部口腔解剖学第一講座

書誌事項

タイトル別名
  • The anti-angiogenic agent, E7820, induces changes in the architecture of lymphatic vessels around tumors

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抄録

固形腫瘍の増殖は腫瘍細胞に由来する増殖因子によって新生される血管に依存することが明らかになり,その結果血管の新生を阻害することにより,抗腫瘍効果を期待する薬剤が開発されてきた。本実験で用いたE7820は,血管の管腔形成を抑制する新しい血管新生阻害薬である。一方,癌治療薬は,ほとんどが局所での有効濃度を考慮して高濃度で経静脈的に,または大量を経口的に投与されており,様々な副作用を引き起こす可能性が考えられる。そこでわれわれは薬剤を少量で,しかも高濃度の状況を得るため,腫瘍塊中心部に薬剤を直接注入する投与方法を用いて検索した。ウサギ舌近縁部にVX2癌細胞を移植し,移植後3日目より隔日で4回,腫瘍塊中心部にE7820(10mg/ml)をそれぞれ100μl注入した。最終投与の翌日に屠殺し舌を摘山,凍結包埋し,10μmの連続切片を作成した。切片は5'-Nase染色を施し,コンピュータに二次元画像として入力,リンパ管を抽出後,三次元再構築し観察した。またリンパ節転移の有無に関しては,深頸リンパ節を摘出後,連続切片標本にH-E染色を施し,病理組織学的に検索した。腫瘍の体積は,対照群と比較して約1/4であり著明に腫瘍の増殖が抑制された。また対照群では,全例に深頸リンパ節への転移が認められたのに対し,薬剤投与群では,80%に転移が認められなかった。腫瘍周囲のリンパ管は,腫瘍外郭200μmの範囲には, 5'-Nase陽性のリンパ管が完全に消滅しており,毛細リンパ管の新生は認められなかった。腫瘍の増殖は本薬剤により抑制されたと考えられた。また薬剤投与により,腫瘍外郭200μmの広範囲のリンパ管が消失したことから,癌細胞がリンパ管源流に到達する確率が低くなり,リンパ節転移が抑制されたと考察した。E7820の腫瘍内投与により,少量の薬剤投与量で著効を認めたことから,本薬剤の有効性と,腫瘍内投与による臨床応用の可能性が示唆された。

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