北九州地区で最近経験した回虫症の3例

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タイトル別名
  • Three Recent Cases or Ascariasis in Northern Kyushu

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抄録

回虫症は現在では「稀な感染症」と見なされているが, 感染の機会が再び増加する傾向にあるようで, われわれも最近立て続けに3例を経験した. 症例1:北九州市小倉北区に住む59才の女性で, 昭和62年3月から腹痛が続いた後排便時に虫体を排泄した. 入院後の頻回の糞便検査でも虫卵は陰性で, 腸管の異常も見られず退院した. 症例2:中間市在住の85才の女性. 昭和62年5月に転倒して脳梗塞症と診断された後, 口から虫体を排出した. 糞便に多数の回虫卵を認めたため, コンバントリンを投与したところ回虫2隻を排泄し, 虫卵排出も陰転した. 症例3:福岡県京都郡犀川町在住の77才の男性. 昭和62年11月早期胃癌の診断で胃切除術の後, 口から虫体3隻を吐出し糞便から多数の不受精卵が検出された. 同時に鉤虫卵も検出されたが, コンバントリン投与によって両虫卵とも陰転した. 最近世界各地で豚回虫の人体感染例が報告されており豚回虫の可能性も考えられたので, 排出虫体の口唇辺縁部にある鋸歯の形態を走査電顕で観察した. その結果, 本症例で得られた虫体では豚回虫に比べて, 1)鋸歯の先端が鈍くて歯間の切れ込みが浅いか広い, 2)鋸歯が細かく, 歯列上の鋸歯数がはるかに多いこと, などが判明し, 3症例とも人回虫Ascaris lumbricoidesによる回虫症と診断された. また, 今後は豚回虫の人への感染の可能性についても留意すべきことを論じた.

収録刊行物

  • Journal of UOEH

    Journal of UOEH 10 (1), 123-132, 1988

    学校法人 産業医科大学

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