零細分散耕地制下における高「限界地代」の形成と稲作経営の規模拡大の困難性について : 線形計画法による再検討

書誌事項

タイトル別名
  • On the Formation of High “Marginal Rent" and the Difficulties in Enlargement of the Size of Rice Farming under Small Scattered Field System in Japan : Reexamination by Linear Programming Method
  • レイサイ ブンサン コウチセイカ ニ オケル コウ ゲンカイ チダイ ノ ケイ

この論文をさがす

抄録

梶井(1973, 51-94頁)の農地流動化論に基づく人々の期待に反して, わが国の稲作における借地型上層農の形成のテンポは遅々たるものでしかなかった. 他方阪本(1958, 189-248頁, 1961, 55-118頁, 1978, 58-79頁)と上野(1973)は零細分散耕地制下における借地型上層農の形成の困難性を高限界地代の形成という側面より指摘していた. 本稿Ⅱでは阪本と上野の指摘を参考にし, 佐賀県における昭和61年産米生産費調査結果を利用して, 計量経済学的手法で梶井の農地流動化論の再検討を行った. なお佐賀県における昭和61年産米生産費調査結果を利用したのは, 資料入手上の制約にもよるが, 同調査結果が稲作規模階層別に表示されており, かつ土地条件等が比較的均一な佐賀県だけの調査結果であったからである. 再検討を行うに当たり, 調査稲作農家を資本装備水準の異なる二つのグループに分類し, 両グループの稲作生産構造の違いを明らかにし, 同じグループ内では稲作画積に関係なく主要な資本装備は同じであるという観点より, 稲作部門の投入産出構造の理論的分析を行い, 理論モデルを作成した. この投入産出構造の理論モデルに基づいて, 各グループごとに, 稲作部門の所得, 剰余, および労働費の稲作規模への回帰直線の推計を行い, この理論モデルの正当性を裏づけるような満足すべき推計結果を得た. この推計結果に基づいて, 梶井の農地流動化論の再検討を行い次のような結論を得た. つまり零細分散耕地制の下では, 限界剰余などの限界概念は実質的かつ重要な意味を持ち, 反当剰余などの平均概念と明確に区別されねばならない. そして借地に関する上層農の競争力を測る適切な尺度は反当剰余(梶井の言う地代負担カ)ではなくむしろ限界剰余である. 従って零細分散耕地制下における借地に関する経営問の競争を, 限界剰余などの限界概念ではなく, 反当剰余などの平均概念で論じた点は, 梶井の農地流動化論の弱点と言わざるを得ない. ところで, 零細分散耕地制の下で, 分割不可能であるため経営面積に比較して過大な能力を持たざるをえない機械体系などが, 一般的かつ有利に農業経営に導入きれるような場合には, それを利用することにより農作業の省カ化も可能となり, 高い限界地代が形成されるものと考えられる. そこでⅢでは, 線形計画法による稲作経営の事例分析をとおして, 機械体系などの分割不能な固定資源ストックの導入の有利性について分析を行い, その導入と限界地代との関係について考察を行った.まずⅢ. 1で分析事例の設定と単純化を行い, 水稲, 大立, 小麦の三部門からなる稲作経営を畜カ作業体系を利用して行う場合と, その替りに中型稲作機械体系を利用して行う場合を比較検討することとした. Ⅲ. 2で農外兼業ができない場合の中型稲作機械体系の導入の有利性について分析を行い, その導入と限界地代との関係について考察を行った. Ⅲ. 3で農外兼業ができる場合の同様の分析と考察を行った. その結果次のような結論を得た. つまり, 分割不能であるために経営面積に比較して過大な能力を持たざるをえない機械体系などが, 零細分散耕地制の下で一般的かつ有利に稲作経営に導入されることは十分にありうることであり, それは現実的なことと考えられる. そしてその利用により農作業が省力化されると, 土地利用のシャドウプライスが大きくなり, そのことが高い限界地代をもたらす原因となる. また分割不能な固定資源ストックの導入の有利性を, その固定資源ストック用役のシャドウプライスで判断することは一般に困難であり, 過大な能力をもつ固定資源ストックの場合, シャドウプライスはその実際の維持費よりも低水準となりがちであるが, そのことは必ずしもその固定資源ストックへの過剰投資を意味するものではない. このような結論を得た後で, 最後にⅢ. 4で, 実勢小作料が限界地代水準に近づけば近づくほど, 借地制資本家的農業経営の成立が論理的にはますます困難になることを, その結論と線形計画法の双対定理を利用して明らかにした.

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ