永久歯う蝕の罹患性傾向に関する研究 : とくに, う蝕予防処置実施校児童について

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  • Cohort Study of Caries Experience in Elementary School Children with Topical Fluoride Applications for Determining Factors for Predicting the Incidence of Caries

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抄録

児童の歯科保健管理を進めるための有用な指標を設定する目的で, う蝕予防処置を実施している小学校において, 定期歯科健康診断結果より得られた情報を分析し, 永久歯う蝕の罹患性傾向を評価できる要因について検討を行った. 対象者は1980年, 1981年および1982年に大阪府下の某小学校に入学した児童で, 1年生から6年生まで毎年5月に歯科検診を受診した386名 (男子217名, 女子169名) とした. なお, 対象者に対し毎年5月と11月にリン酸酸性フッ化ナトリウムゲルをトレー法で歯面塗布を行った. う蝕罹患性傾向の要因は, 1年生時で得られる口腔診査情報から, 乳歯う蝕経験歯数, 永久歯萌出歯数および永久歯う蝕経験歯の有無とし, 6年生までの永久歯う蝕経験歯を追跡して評価した. また, 萌出後歯年齢を基準として歯種および歯群別にDMF T rateを指標として追跡した. その結果は次の通りである. 1) 対象児童の永久歯う蝕罹患状況は, 入学年度別には有意差が認められなかった. また, 1年生から3年生までの男女間に有意差がみられ, 女子のほうが高い値となったが, 4年生以後男女間に有意差はみられなかった. う蝕罹患状況は, 全国平均に比べ6年生時のDMF T indexで1歯少なかった. 2) 1年生時のdef歯数を4歯以下群 (Ld群), 5〜13歯群 (Md群) および14歯以上群 (Hd群) に分類したところ, 各群の6年生時でのDMF T indexはLd群がMd群およびHd群に比べ明らかに低値を示した. また, 各群の歯種別DMF T rateを歯年齢でみると, 第一大臼歯は5歯年で, 上顎切歯では4歯年でいずれもLd群が最も低く, ついでMd群, Hd群の順となった. このことから, 1年生時でのdef歯数の少ない者はう蝕罹患性傾向の低いことが明らかになった. 3) 1年生時の永久歯萌出歯数を2歯以下群 (LN群), 3〜6歯群 (MN群) および7歯以上群 (HN群) に分類したところ, 各群の6年生時でのDMF T indexは, LN群が最も低く, 次いでMN群であり, HN群が最も高い値を示した. しかし, 各群の歯種別DMF T rateを歯年齢でみると, 第一大臼歯および上顎切歯とも3群間に明確な差が認められなかった. このことから, 1年生時での永久歯萌出歯数の多少は, 6年生時のう蝕経験歯数の多少と関連しているが, う蝕罹患性傾向を示す要因でないことがわかった. 4) 1年生時での永久歯う蝕の有無, すなわちDMF歯数を0歯群 (LD群) および1歯以上群 (HD群) に分類したところ, 各群の6年生でのDMF T indexでは, LD群がHD群に比べ明らかに低値を示した. また, 各群の歯種別DMF T rateを歯年齢でみると, 第一大臼歯は5歯年で, 上顎切歯では4歯年でいずれもLD群がHD群に比べ低い値を示した. このことから, 1年生での永久歯う蝕の有無は, 6年生時でのう蝕罹患状況を反映し, またう蝕罹患性傾向を示す要因であることがわかった. 5) 1年生時におけるdef歯数, 永久歯萌出歯数および永久歯う蝕の有無の各因子の関連性から, 1年生時def歯数の多少が他の因子よりもう蝕罹患性傾向をよく表わしており, 次いで1年生時永久歯う蝕の有無であった. すなわち, 1年生時に乳歯う蝕の少ない者が最も低いう蝕罹患性傾向を示し, 永久歯う蝕のある者が最も高いう蝕罹患性傾向を示すことが明らかとなった. 6) 以上のことから, う蝕罹患状況の低い児童集団においても, 1年生時の口腔診査で得られる要因がう蝕罹患性傾向を評価できる指標であることが明らかとなった.

収録刊行物

  • 歯科医学

    歯科医学 53 (4), g31-g32, 1990

    大阪歯科学会

被引用文献 (2)*注記

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