コモンリスザルSaimiri sciureusの口蓋粘膜の微細血管構築

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タイトル別名
  • Microvascular Architecture of the Palatine Mucosa in the Common Squirrel Monkey (Saimiri sciureus)

抄録

口蓋の粘膜は咀嚼粘膜といわれ, 非可動性で咀嚼, 嚥下, 発音機能に重要な役割を果たし, さらには床義歯の維持安定にも貢献するところが大きい. また, 硬口蓋には動物種それぞれに特有の形態をもつ横口蓋ヒダが認められる. 本研究はコモンリスザルの口蓋粘膜の微細血管構築について詳細に検索し, さらにニホンザルや食性の異なる他の動物種について比較考察を行った. 材料と方法 : 成コモンリスザルSaimiri sciureus5頭を用いて, アクリル樹脂注入法 (1990) によって口蓋部の微細血管鋳型標本を作製, 走査電子顕微鏡 (JSMT300) によって観察を行った. また樹脂注入後, 口蓋の連続組織切片を作製, ヘマトキシリン単染色を施し, 血管構築と周囲組織との関係を観察した. 観察所見 : コモンリスザルの骨口蓋は切歯骨, 上顎骨口蓋突起, 口蓋骨水平板によって構成され, ドーム型ではなく平坦であった. 硬口蓋粘膜の前端正中には切歯乳頭があるが極めて発達が悪く, その両側には切歯管が口腔に開口していた. その後縁からほぼ等間隔に並ぶ7〜8本の横口蓋ヒダが左右対称に認められた. ヒダの隆起は後方のものほど発達が弱く低く, またヒダとヒダの間は平坦であった. 口蓋の上皮の厚さはほぼ一定であったが, わずかに前方で厚く, 固有層の厚さはヒダの部分ではその隆起に一致して厚くなっていた. 固有層乳頭の高さはヒダ部も, ヒダ間の平坦部でもほぼ同じであった. 粘膜下組織は固有層と同じ厚さで, 口蓋正中部と歯肉の部分では, その厚さを減じて直接固有層が骨膜へと移行していた. 硬口蓋後縁から後方の軟口蓋に口蓋腺が多数開口していた. 硬口蓋に分布する動脈は口蓋孔から出る硬口蓋動脈と, 翼口蓋切痕を通る軟口蓋動脈の分岐であった. 硬口蓋動脈は硬口蓋を前走し, 切歯孔の両外側にある骨小孔に入っていた. 本動脈からは走行中, 多数の内側枝と外側枝を派出していた. 内側枝は内側ないし前内側方へ向かい, 分岐し, たがいに吻合し, 外側枝は直線的に前外側方へ向かい臼歯部口蓋側歯肉に分布していた. ヒダ枝は内・外側枝から出て, 粘膜下動脈網 (1次動脈網) を形成していた. また軟口蓋動脈は軟口蓋に分布し, その分枝は硬口蓋の外側後方部に分布していた. 1次動脈網から表層に向かって細動脈が派出し, 固有層内に固有層動脈網 (2次動脈網) を形成していたが, この動脈網からはさらに多数の細枝が出るため不明瞭であった. この細枝は表層に向かい, 上皮下毛細血管網を形成していた. この毛細血管網から固有層乳頭に単純なヘアピン型の毛細血管ループが出ていて, その高さはヒダ部もヒダ間の平坦部でもほぼ同じであった. ループの下行脚は静脈側の上皮下毛細血管網を経て, 集合して固有層動脈網と同じ深さにある固有層静脈網に流入し, さらに粘膜下静脈網に注いでいた. また, 硬口蓋後縁から軟口蓋には口蓋腺の腺房外周毛細血管網が, その導管の開口部には毛細血管輪が認められた. 結論 : コモンリスザルの口蓋の微細血管構築は, ニホンザルのものに類似していたが, 固有層血管網と粘膜下血管網の境界は不明瞭であった. これはコモンリスザルとニホンザルとの体格や, 生活環境や, 食性が異なるためと考えられる.

収録刊行物

  • 歯科医学

    歯科医学 55 (1), g51-g52, 1992

    大阪歯科学会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001204210371328
  • NII論文ID
    110001723506
  • DOI
    10.18905/shikaigaku.55.1_g51
  • ISSN
    2189647X
    00306150
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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