歯根膜細胞を付着させた歯の再植後付着様式について : 再植歯根への新付着形成法

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抄録

近年, 失われた天然歯の咀嚼機能を回復するため, 歯の喪失部に人工歯根の移植, あるいは歯の再植が試みられている. しかし, それら移植歯への組織付着は, 結合組織性付着あるいは骨性癒着に帰着し, 新生セメント質を伴った歯根膜の再生は望めない. このことは, これら移植歯が生理的咬合力に適応できず, 早晩, 周囲組織は崩壊の道をたどることを予測させる. 周知のように, 歯根膜は咬合力を緩衝する機能を有するとともに, 神経筋機構に深くかかわる重要な組織である. したがって, 人工歯根あるいは再植歯根に歯根膜を形成し歯本来の機能を復元することが, これらの移植法に要求される最大の課題である. そこで今回著者らは, セメント質形成を伴った歯根膜組織を得るため, サル歯根に歯根膜由来細胞を付着させたのち, 長期間攪拌培養を試み, 続いて, その攪拌培養歯を元の歯槽窩に再植し, その付着状況を組織学的に検討した. 実験動物にはニホンザル2頭を用いた. まず, 各サルの上下顎左右側小臼歯を抜去し, 歯根膜由来細胞を獲得した. 1頭のサルでは, 歯に歯根膜由来細胞を付着させ, 長期攪拌培養し, 培養細胞と根面間にどのような付着が形成されるか検索した. 上顎右側中切歯を抜去, 抜髄と根管充填を施したのち, 象牙質露出の根面処置を行った. ついで, 中切歯をシャーレに静置し, その上から, 同サルから分離, 培養した歯根膜由来細胞を歯根面上に播種, 開放系で培養した. 2日後, 歯を裏返し, 同様の処置を施した. ついで, FBS添加MEM入り枝付きフラスコ中に懸垂し, 培養を開始した. 4週間攪拌培養後, 懸垂歯を取り出し, 前固定, 後固定, 臨界点乾燥, 金蒸着を施し, SEM観察した. その後, 同試料で非脱灰TEM試料を作製し, 超薄切したのち, TEMにて観察した. 他の1頭のサルは, 長期攪拌培養した歯を再植し, その付着様式を調べた. 実験に先立ち抜歯窩確保のため, 上顎左右側中切歯を抜去, 根管充填と象牙質露出の根面掻爬を行ったのち, 各歯根の石膏模型を作製, 抜歯窩に捜入した. 同時に, 根管充填した右側中切歯は, 根面に同サルから分離, 培養した歯根膜由来細胞を播種し, 攪拌培養した. 4週後, 抜歯窩に挿入した石膏を除去, 同部に再植した. 他方, 反対側には FBS添加MEM中に保存した左側中切歯を再植した. 再植6週後, 術部の歯, 歯肉および骨を一塊として取りだし, 通法に従ってエポン包埋した. 包埋試料は,準超薄切片を作製, 光顕的に観察した. その後, 超薄切片を作製, TEMにて観察した. その結果, 今回の懸垂攪拌培養法によって, 歯根面は培養細胞によって, すべてを覆いつくされた. また細胞-根面間の観察で, 根面上を種々の方向に走行する多量の新生線維の集積がみられた. しかし, 根面上にはセメント質の形成は認められなかった. 根面に歯根膜由来細胞を付着した再植歯では, 付着上皮の深行増殖はわずかであった. 根面への歯肉付着は, 個々の細胞間境界が明かでない扁平な培養細胞が1あるいは2層となって根面に付着するのがみられた. そして, これら培養細胞の外側に, 新たに増殖してきた線維芽細胞が配列していた. 超微構造学的には, 培養細胞と根面間に, 高電子密度の顆粒状物質がみられた. 一方, 歯根膜由来細胞を付着しなかった再植歯では, 付着上皮が歯槽骨頂よりさらに根尖側へ深行した. また, 新生骨に対応する根面には, 大きな吸収窩やアンキローシスが観察された. 以上のことから, 本研究結果は, この新処置法は新結合組織性付着を成就させうる方法であることを示した.

収録刊行物

  • 歯科医学

    歯科医学 58 (3), g125-g126, 1995

    大阪歯科学会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282679186556672
  • NII論文ID
    110001723764
  • DOI
    10.18905/shikaigaku.58.3_g125
  • ISSN
    2189647X
    00306150
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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