食物の性状がラット咀嚼筋神経筋接合部におよぼす影響について(大阪歯科大学大学院歯学研究科博士(歯学)学位論文内容要旨および論文審査結果要旨の公表)

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抄録

咀嚼は, 顎口腔系をなす諸器官の神経筋機構による巧妙な協調運動であり, 口腔の諸器官の形態条件や機能的条件, さらには食品の形態, 物性など多くの因子によって影響を受けている.咀嚼器官が調和をもって働くためには, それぞれの器官が分化発育することが大切であるが, しかし近年, われわれの食環境の変化に伴い, 食の洋風化, 簡便化とともに, 摂取食物は軟食化の傾向にある.そのために咀嚼器官の退化あるいは発達の遅れ, また不正咬合の原因の一つである顎骨と歯の大きさの不調和が生じるといわれている.筋線維の相違は筋を支配している運動神経によるところが多く, 哺乳類骨格筋の神経筋接合部は, 筋線維の収縮性の違い, 発育過程などによってこれらの構造が著しく変化することが報告されており, 近年, 筋機能と神経筋接合部の形態との関連が論じられている.そこで本研究は筋機能を減弱させる目的で粉末飼料を与え, 固形飼料群と神経筋接合部の形態・分化発達に関して比較検討した.実験方法および材料 実験動物はStd系Wistarラット雄60匹を用い, 固形飼料飼育群と粉末飼料飼育群とに分け, 実験開始を2週齢とし両群ともに3, 5, 7, 12, 15, 20各週齢まで飼育した.固形飼料群にはオリエンタル酵母社製ラット飼育用MRストックを, 粉末飼料群には固形飼料群で使用したMRストックを直径20μmに超微粉砕した粉末を与えた.実験終了時3%グルタールアルデヒド含有0.1Mリン酸緩衝液(pH7.3)にて固定後, 2%四酸化オスミウムにて1時間後固定を行い, 60℃, 8N塩酸に最長30分間浸漬させ, 筋内結合組織および基底膜を除去する方法を用いて処理した.その後通法どおりに脱水, 乾燥, 蒸着を行い, 日立S-4000走査型電子顕微鏡にて観察した.形態計測として, 神経筋接合部の後シナプスひだの数, その長さと幅の比(L / W)を計測し, シナプスひだの形状を表わす指標として, L / W<2をpits, 2<L / W≦5をshort slits, 5≦L / Wをlong slitsとに大別した.結果および考察 固形飼料群ラットでは, 咬筋, 側頭筋ともにシナプスひだの数は生後3週齢までに急激に増加し, 生後5週齢から7週齢の期間にpit状のシナプスひだが有意に減少し, slit状のシナプスひだが有意に増加した.一方, 粉末飼料群ラットでは, 咬筋, 側頭筋ともにシナプスひだの数はびまん性に増加し, 生後7週齢から12週齢の期間にpit状のシナプスひだが有意に減少し, slit状のシナプスひだが有意に増加した.また, 固形飼料群と粉末飼料群を比較すると生後7週齢目においてpit状およびslit状のシナプスひだの割合に有意な差を認めた.咬筋, 側頭筋ともに神経筋接合部の生後の発育が進むにつれて, 後シナプス構造は陥凹からより複雑な迷路状を呈するシナプス溝が形成されるようになり, また, シナプスひだは数を増すとともにpit状からslit状へと経時的に変化した.以上のことから, 咬筋と側頭筋の神経筋接合部の形態の発達は胸骨甲状筋と同様の分化発達様式をとるものと考えられ, pit状のシナプスひだの増減は神経筋接合部の成熟の度合を知る指標であることから, 粉末で飼育した場合, 神経筋接合部の発達は固形飼料で飼育した場合に比べて遅れており, 筋機能の減弱が神経筋接合部に影響を与えたことを示唆している.

収録刊行物

  • 歯科医学

    歯科医学 63 (2), 67-68, 2000

    大阪歯科学会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282679186038144
  • NII論文ID
    110001724194
  • DOI
    10.18905/shikaigaku.63.2_67
  • ISSN
    2189647X
    00306150
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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