Fine Structure of the Sinus Hair (Pillus labialis maxillaris) and its Microvascular Architecture in the Cat

DOI

抄録

洞毛はヒト以外の哺乳動物の上・下両唇に存在する最大の毛で, 表情筋線維によって運動し, 機能上は触毛に属する. その形態的特徴は, 結合組織性毛包内に巨大な静脈洞 (毛包血洞) を有することである. 著者は, ネコ上唇毛の微細形態とその微細血管構築を走査電子顕微鏡で立体的に観察し, その機能について考察を試みた. 材料と方法 本研究には20頭の成ネコを用いた. うち3頭は上唇領域を墨汁注入組織切片とし, 12頭は両側総頚動脈からアクリル樹脂注入法により微細血管鋳型標本を作製し, 走査電顕で観察した. 残り5頭については2.5%グルタルアルデヒド溶液で灌流固定後, 3頭は凍結割断標本とし, 残り2頭については透過電顕で毛細血管壁の微細形態を観察した. 所見 1. 上唇毛 (洞毛) の微細形態 : 上唇毛の太さは300μm程度のものが多く, 表皮から洞毛毛乳頭までの長さは4mmで, 底部は表情筋線維にまで達している巨大な毛であった. 上唇毛では内外2層の結合組織性毛包鞘が非常によく発達し, 両毛包鞘の間には毛包血洞が存在していた. 内毛包鞘から多数の結合組織性小柱が網目を形成して外毛包鞘まで連続し, 海綿洞を構成していた. 小柱は表皮側1/3部では全く認められず, 毛の周囲を取り巻くドーナツ型の環状洞を形成し, その内面には内毛包鞘がコブ状に肥大して, いわゆるRingwulstを形成していた. 2. 上唇毛の微細血管構築 : 上唇動脈の末梢である細動脈は, 各上唇毛ごとに外毛包鞘を貫いて上唇毛に分布する細動脈と, 毛の毛乳頭直下から毛乳頭に分布する細動脈となり, 毛乳頭毛細血管網・毛包毛細血管網ならびに毛包血洞を形成していた. 1) 毛乳頭毛細血管網 : 毛根細動脈の数枝は毛乳頭へ侵入し, 周囲に毛細血管を派出して毛乳頭毛細血管網を形成していた. その網目は基底部では円形を呈し, 太い毛細血管で構成され, 毛皮質形成後は毛細血管は細く, 毛軸方向に長い網目へと変化していた. 2) 毛包毛細血管網 : 毛包下細動脈は海綿洞を通過して内毛包鞘に毛包毛細血管網を形成していた. その網目は基底部では毛軸方向に長く, 毛皮質形成後は毛軸に直角の網目で, 環状洞下縁までは疎な網目を, 環状洞内面では網目を形成せず蛇行し, 環状洞の上方で再び円形の網目を呈していた. 最表部では毛を囲む毛細血管輪を形成し, さらに表皮側では固有層血管による毛細血管輪と2層の毛細血管輪を形成していた. 3) 毛細血洞 : 環状洞の断面はRingwulstの存在のため腎臓形を呈し, 海綿洞の網目は環状洞直下で最小, 基底部で毛軸方向に拡大していた. 毛包血洞の血液は毛包毛細血管網から毛根細静脈または毛包下細静脈または毛包下細静脈を経て外毛包鞘外へ, 上方は2層の毛細血管輪を経て固有層の細静脈へ流出していた. 考察と結論 毛乳頭および毛包毛細血管網の網目形態の部位的変化は栄養供給量の変化を表わしている. 毛皮質形成後, 毛包毛細血管網は密になり栄養供給路が毛包側に移行し, 毛皮質形成が完了すると網目は粗くなるので栄養供給量が減少したことが示唆される. 毛細血管は環状洞内側を通過するだけである. 内, 外毛包鞘間の結合組織性小柱は海綿洞の膨大を防ぎ, 洞毛に加わる外力に対して保持・脱離に対する抵抗形態と考えられる. 環状洞の作用は, この部の洞毛の運動量が最大となるため流体力学的緩衝の役割を示し, Ringwulstも抵抗力を増強させる. 海綿洞の作用は, 内毛包鞘内の多数の神経終末に対する過剰振動を減衰させて保護するものと考えられる.

収録刊行物

  • 歯科医学

    歯科医学 54 (2), g95-g96, 1991

    大阪歯科学会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001204210350720
  • NII論文ID
    110001724394
  • DOI
    10.18905/shikaigaku.54.2_g95
  • ISSN
    2189647X
    00306150
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ