ホンドタヌキの顔面動脈について

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タイトル別名
  • On the facial artery of the raccoon dog (Nyctereutes procyonoides viverrinus Temminck

抄録

顔面に分布する主要動脈はヒトでは顔面動脈が主体である. また, 多用される実験動物の顔面動脈の発達様相は動物種差がかなり大きく, いろいろな形態をとることが報告されている. 食肉目のなかでもホンドタヌキの脈管系に関する報告は皆無である. 本種の下顎枝角突起の前下方には巨大なsubangular lobeならびに角突起のすぐ前下方の極めて深い切痕は, 他の食肉目と異なり本種の特徴で, またこの部分が顔面動脈の走行と深く関係している. 著者らはホンドタヌキの下顎角付近の形態と顔面動脈の起始様相, 走行, 分枝, 分布について詳細に調査し, 他の食肉目のものと比較考察を試みた. 材料と方法 食肉目の成ホンドタヌキ20頭の両側総頚動脈から, 樹脂脈管注入法によってアクリル樹脂を注入した. 頭頚部動脈系の鋳型標本とホルマリン固定剖検標本を作製して, これを観察と計測に供した. 所見 1. 顔面動脈の概観 : 顔面動脈は, 全観察40例中38例で外頚動脈が鼓室胞前下端を外側方へ曲がるとき, 舌動脈と後耳介動脈の起始の間で, 前外側方へ単独で起始していた. 残る2例では顔面動脈の起始が後耳介動脈の遠位に位置し, オトガイ下動脈は本来顔面動脈の起始位置で直接外頚動脈から起始していた. 顔面動脈は顎二腹筋の上内側を前走し, 顎舌骨筋後外側端でオトガイ下動脈を前方へ派出していた. 続いて本動脈は下外側方へ曲がり, 非常に発達した角突起前下方に続く大きな顔面血管切痕を通って顔面へ出ていた. この位置は頬骨弓の前後的中央より後方で, その直前にある顎二腹筋の停止域であるsubangular lobe (Huxley 1880) との間に位置していて, 他種とはかなり後方である. 顔面へ出た本動脈は, 咬筋前縁に沿ってほぼ水平に近い角度で前上方へ進み, 前咬筋枝, 下顎縁枝, 皮枝, 頬枝を派出し, 頬筋の下顎起始下縁に達して下唇及び上唇動脈の2終枝となり, 前者はオトガイ動脈と, 後者は眼窩下動脈と吻合していたが, 両者とも正中には達していなかった. 2. 分枝 : 茎突舌筋枝は舌下腺, 下顎腺管, 顎二腹筋にもまれに分布していた. オトガイ下動脈は下顎骨下縁内側を前走し, 多くの小枝を顎二腹筋と顎舌骨筋に与え, オトガイ舌筋起始後縁で舌下動脈を派出し, 下顎体下縁に沿って多数の皮枝を与えつつ下顎間結合下後端に達し, 反対側の同名動脈と吻合していた. この吻合部からの小枝は両側オトガイ舌骨筋の間を上行して舌下動脈と吻合し, 下顎間結合やオトガイ舌骨筋に分布していた. 舌下動脈は顎舌骨筋とオトガイ舌筋の間を前上方へ向かい, オトガイ下動脈と吻合して下顎前歯部舌側歯肉に分布して終わっていた. 前咬筋枝は顎二腹筋, 下顎骨骨膜, 咬筋浅層に分布していた. 下顎縁枝は顎二腹筋停止, 下顎骨骨膜, 下顎下縁の皮膚に分布し, 皮枝とともに皮下動脈網をつくって広頚筋, 下顎体臼歯部と咬筋外面の皮膚に分布していた. 下唇動脈は臼歯腺枝, 下唇縁枝, 粘膜枝, 皮枝を派出して下唇に, 上唇動脈は上方への枝, 口角枝, 上唇縁枝を派出して上唇に分布していた. 考察と結論 ホンドタヌキの顔面動脈の起始と分枝は他の食肉目のものと極めて類似していた. しかし, 顔面動脈の顎下部が短く, 下顎底を廻って顔面に出る位置は極めて発達した角突起のすぐ前下方の顔面血管切痕であり, 顔面部は水平に近い傾斜をとることや下顎腺枝が認められなかった. これは咬合高径がかなり低いことを物語っている.

収録刊行物

  • 歯科医学

    歯科医学 54 (5), g43-g44, 1991

    大阪歯科学会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390282679186756864
  • NII論文ID
    110001724454
  • DOI
    10.18905/shikaigaku.54.5_g43
  • ISSN
    2189647X
    00306150
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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