ワルファリンカリウム投与ラットの抜歯窩治癒過程に関する研究

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抄録

ワルファリンはビタミンKと桔抗してビタミンK依存性の血液凝固因子の合成を阻害するので, 抗凝血薬として広く用いられている. また, 骨中にもビタミンK依存性の蛋白質であるオステオカルシンが存在することから, ワルファリンは骨形成に影響を及ぼすと考えられ研究されているが, 現在のところ結果は一定していない. そこで, 著者はラットにワルファリンを投与し, 抜歯後の治癒過程を検討した. 実験方法 Priceらの方法に従ってワルファリンカリウム (ワーファリン^[◯!R]) を新生仔ラットに投与すると同時に, 必要最少量のビタミンK_1 (ケーワン^[◯!R]) を母獣と新生仔ラットに与えて出血を防ぎ, しかも骨中のオステオカルシンの低下が生じるように連日背部皮下に投与を行った. そして, 6週齢となった雄性ラットの上顎第一臼歯を抜去した. なお, 抜歯の3日前からワルファリンおよびビタミンK_1の投与を中止し, 術後翌日から再開した. 術後1日, 2日, 4日, 7日, 10日, 2週, 3週, 4週および6週に各群3匹を屠殺し, 前額断連続切片を作製してヘマトキシリン-エオジン染色を施し鏡検した. また, 術後4日と1週, 2週, 3週, 4週および6週に各群3匹を屠殺して研磨標本を作製し, マイクロラジオグラムにより観察した. 対照として無投与群を用いた. 実験結果 1. 抜歯後初期の未分化間葉細胞や新生血管の数は, ワルファリン投与群が対照群よりも少なかった. 2. 新生骨は, 対照群では抜歯後4日に形成されたが, 実験群では形成が遅れ, 骨芽細胞の数も少なかった. 両群とも1週になると新生骨は抜歯窩の中2/3に形成され, 10日では抜歯窩の4/5の高さまで達し, 2週で抜歯窩全体をほぼ満たしていた. 実験群と対照群との間で新生骨の形成される部位に大きな差はみられなかったが, 梁状に形成された新生骨の厚みは実験群の方が細く, 形成量には差が認められた. 3. 破骨細胞は, 対照群では抜歯後1日に窩壁および窩底部に認められ, 2日に最も多く, 4日以降はほとんどみられなかった. これに対して, 実験群では抜歯後1日にはみられず, 2日より点在しはじめ, 4日には散見され, 10日においても少数認められた. 4. 6週では両群の間に大きな差は認められなかった. 以上の結果から, ワルファリンの投与により創傷治癒の初期において軟組織の治癒や新生骨の形成が遅れることが判明し, 未分化間葉細胞, 骨芽細胞および破骨細胞の増殖や代謝に影響を及ぼしていることが示唆された. また破骨細胞の出現時期が遅れたことは, ワルファリン投与によりオステオカルシンが欠乏したこととも関係していると考えられる. 臨床上, 手術後早期の感染予防にとくに注意が必要であると思われる.

収録刊行物

  • 歯科医学

    歯科医学 55 (2), g95-g96, 1992

    大阪歯科学会

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001204210414208
  • NII論文ID
    110001724488
  • DOI
    10.18905/shikaigaku.55.2_g95
  • ISSN
    2189647X
    00306150
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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