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抄録

当部門は大学院学科目「生体機能制御学」を担当する教室である。平成10年度から, 神経内分泌学を中心とした生理学的研究を行う教室として出発した。生体の個体としての機能とその制御機構についてホルモンを対象として研究を行う。I.成長ホルモンの分泌調節機構(プロジェクト・リーダー : 南 史朗)1)成長ホルモンの分泌リズム 下垂体ホルモンの分泌は視床下部ホルモンによる調節をうけ, さらに上位中枢からの影響下にある。また, ホルモン分泌には生物時計に裏打ちされた日内リズムに加えて超日リズムがあり, 生体の恒常性の維持に重要であると考えられる。ホルモン分泌における超日リズムの発現機構と意義については不明な点が多く, そのメカニズムの中枢については解明されていない。この超日リズムの発現機構を解明することを目的として成長ホルモンについて研究を行い, 成長ホルモンの分泌リズムの形成には成長ホルモンの分泌を抑制する視床下部ホルモンであるソマトスタチンの間歇的な分泌が中心的役割を担っていることを明らかにしてきた。さらに, ソマトスタチンの分泌あるいはソマトスタチン細胞の活動に周期性を与えるメカニズムとして, アンドロゲンによる視床下部機能修飾作用が重要であり, このアンドロゲン感受性機構の解明に取り組んできた。アンドロゲンは数時間以内に視床下部の状態を雌から雄に変化させ, 成長ホルモンの分泌パターンを雄化することがわかった。2)成長ホルモンのオートフィードバック機構 一方で, 成長ホルモンが視床下部に作用して自己の分泌を制御する自己分泌調節機構(auto-feedback)がある。成長ホルモンの作用部位を検討し, 視床下部のニューロペプチドY細胞とソマトスタチン細胞が標的細胞であるとの説を提唱した。リズム形成とフィードバック系が下垂体ホルモン分泌の中軸であり, この機構を解明し, かつこの機構に影響する因子を明らかにしていく。3)成長ホルモン受容体を介する細胞内シグナル伝達に関する研究 成長ホルモン受容体はサイトカイン受容体ファミリーに属し, JAK2-STAT系を駆動してシグナルを伝達することがわかっている。サイトカインはその後ネガティブフィードバックとしてCISsを活性化する。成長ホルモンによるCISsの活性化について検討中である。II.プロラクチン分泌調節機構(プロジェクト・リーダー : 時田玲子)1)プロラクチン放出ペプチド プロラクチンの分泌は視床下部からドパミンによって抑制的に調節されているが, 特異的分泌促進因子は発見されていなかった。最近, その候補物質としてプロラクチン放出ペプチド(PrRP)が単離同定された。in situハイブリダイゼーションによってPrRPのメッセンジャーRNAは脳内の極めて限局された部位(主として脳幹部)にのみ存在しているが, PrRPの受容体のメッセンジャーRNA含有細胞は脳内に広く分布していることを明らかにした。このことから, 向下垂体作用以外の生理作用を持つことが考えられた。このペプチドの生理的作用と特性を検討した結果, プロラクチン分泌促進作用についてはエストロゲンによって強く影響をうけることがわかった。III. Corticotropin-releasing factor(プロジェクト・リーダー : 今城俊浩) Corticotropin-releasing factor (CRF)のファミリーペプチドであるUrocortin遺伝子のラット組織中での発現をRT-PCR法とin situ hybridization法により検討し, 中枢神経内では視床下部の視索上核のVasopressin及びOxytocin産生細胞に発現し, 浸透圧刺激によりUrocortin mRNAが著明に増加することを明らかにした。Urocortinは浸透圧調節に関わっていることが考えられる。末梢組織ではUrocortin mRNAは心臓や消化管の筋層間神経叢と粘膜下神経叢に発現していることから, Urocortinが腸管の運動に関与していることが示唆された。2)CRFとNO ラットにLipopolysaccharideを投与し敗血症ショックを誘発すると視床下部-下垂体-副腎系が活性化される。その際, 視床下部室傍核のCRF産生細胞で神経型NO合成酵素(nNOS)及び誘導型NOS (iNOS)の発現が誘導され, NOSの活性も増加することを見い出した。敗血症ショックではnNOS及びiNOSから産生されるNOが視床下部-下垂体-副腎系の反応に重要な働きを担い, NOは免疫系の反応を内分泌系に伝達する重要な役割を果たしていると考えられる。IV.甲状腺乳頭癌の原因遺伝子(プロジェクト・リーダー : 中田朋子) 甲状腺乳頭癌では一部の症例で, 神経系の細胞の分化と維持に重要な働きをしている遺伝子c-retおよびtrkAのチロシンキナーゼをコードする領域の5'側に他の遺伝子が融合していることが報告されている。これら5'側に融合している遺伝子に共通の性質として普遍的に発現していること, コードしているタンパク質がオリゴマーを形成することが挙げられているが, 癌化の全体像についは未だ明らかではない。我々は甲状腺乳頭癌においてc-ret遺伝子と融合しているELKS遺伝子の性質を解析してきた。その結果, 他の融合遺伝子と同様にELKSは普遍的に発現し, ELKSタンパク質はオリゴマーを形成することが明らかとなった。今後, さらにELKSタンパク質の性質を研究することにより, 癌化の作用機序を明らかにしていきたい。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1570854176861188992
  • NII論文ID
    110001801125
  • NII書誌ID
    AN1047681X
  • ISSN
    13409662
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • CiNii Articles

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