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Abstract
幕末明治初期の知識人は,西洋近代の思想観念と事物概念を摂取する過程で,漢字の新たな結合による派生を中心として夥しい近代漢語を考案した。その結果,日本語の漢語語彙は意味領域においても語彙量においても飛躍的に拡張された。本発表では,近代漢語の形成が杉田玄白に代表される『解体新書』の翻訳によって確立された江戸蘭学の濫觴期から,幕末の箕作阮甫に代表される西洋地理・史学など蘭学から英学への転換期を経て,明治初期の知識人,特に在野の福沢諭吉と官界の西周に代表される啓蒙家の活動によって大きく実る成熟期に至ったと考察し,その過程についての管見をまとめた。近代漢語は次のように広義と狭義二つの範疇に分けることが可能であり,発表者は東アジア漢字文化圏の近代化研究との関連で狭義に「近代漢語」の術語を用いている。(1) 広義では,1801年以降明治以前に,蘭学者が「鎖国」を自覚し西洋文明を意識し始め,西洋医学,自然科学等の術語の翻訳に当って考案した漢語を含む。例えば,「鎖国」「細胞」。(2) 狭義では,幕末明治初期から明治20年代半ば頃までに,福沢諭吉や西周など啓蒙思想家が近代の西洋文明を把握する過程で抽象概念を表わすために鋳造した漢語を指6す。例えば,「哲学」「学術」「科学」「民主」。近代日本語における新たな漢語語彙の形成には,はじめ,中国語から受けた影響も少なからず見られたが,明治初期に西洋近代の抽象概念を表わす近代漢語となると,その多くが西周などの啓蒙思想家によって考案されたことは,夙に森岡健二氏等の研究によって明らかになっている。狭義の近代漢語の研究には,江戸時代から引き継いで明治の知識人が共有する素養-儒学(朱子学・陽明学・徂徠学等)と,西洋近代思想を日本語の中に将来し移植しようとして腐心した啓蒙思想家についての研究が重要な課題であろう。また,中国に伝播した,日本で創案された近代漢語が,その近代化にいかなる意味をもったかを考察することは,いうまでもなく,発表者にとって大きな問題関心である。
Journal
- Kokugogaku : studies in the Japanese language [List of Volumes]
-
Kokugogaku : studies in the Japanese language 52(3), 89-90, 2001-09-29 [Table of Contents]
The Society of Japanese Linguistics