高温飼育したヒキガエル幼生の前肢における指異常について

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  • Digrital malformations in the forelimbs of the toad larvae reared at a high temperature

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抄録

筆者はさきにヒキガエル幼生を30土1℃の高温で飼育すると種々の欠損的な趾異常が生ずることを報告し(Muto,1969a),さらに変態の終りに達した趾異常を有する61個の幼生の後肢骨格の異常について報告した(Muto,1969b)が,これらの幼生の前肢においても種々の指異常が認められたのでしらべた.これらの指異常のうち軽度の短指だけの異常を"mild ectrodactylism",そのほかに明瞭な短指,指の屈曲や外反,指側面の2指または3指間の接触,合指などのみられるものを"moderate ectrodactylism",上記のほかにおもに第2指にみられる欠指や発育不全のみられるものを"Severe ectrodactylism"とよぶこととした.ヒキガエルでは恨跡的な第1掌骨(第1中手骨)は形成されるが第1指の指骨は形成されず,したがって第1指は形成されない.61個の幼生のすべての手において短指が認められたが,指別にみると第5指にもっとも多くみられ,ついで第2指,第4指,第3指の順にみられた.欠指や発育不全はほとんど第2指にみられた.これらの幼生の後肢骨格をしらべた結果上聴骨および橈尺骨には特に異常はなく,手の骨格にだけ種々の異常があることがわかった.腕骨(手振骨)では,小腕骨間や小腕骨と根跡的な第1掌骨(第1中手骨)間のゆ合が一般にみられた.掌骨(中手骨)の異常としては,掌骨基部間のゆ合がしばしばみられたが,これが指の方向を変化させて第2または第5指の外板,指側面間の接触や軟部合指をおこすことがわかった.まれに第2掌骨(第2中手骨)が外側に屈曲して第2指の外板をおこしたり,内側に屈曲して第2,3指の側面接触をおこしたりしていることがわかった.なおまれではあったが,掌竹(中手骨)の先端部が互にゆ合したり,二つの掌骨(中手骨)が完全またはほとんど完全にゆ合している場合があったが,これらは指の方向異常(clinodactylism)や外反などの原因になっていることがわかった.おもに第2指まれに第5指にみられる欠指は指骨ばかりでなく掌骨(中手骨)の欠除によるのが普通であるが,根跡的な掌骨(中手骨)が認められる場合もあった.掌骨(中手骨)の発育不全がときには著しい短指の原因をなしている場合があったが,この種の異常は第3指に比較的多くみられた.指骨の異常としては指骨数不足(hypophalangism)がもっとも普通でこれが短指のおもな原因をなしていることがわかったが,指骨の発育不良やゆ合も軽度の短指をおこしていることがわかった.このような観察結果から前岐における価格異常はすでに報告した後肢の骨格異常と類似しており,比較的後期に形成される骨ほど欠損的な異常をおこしやすい傾向が認められる.このことは,すでに前報(1969b)においてのべたように,欠損的趾異常についてのTschumiの説を支持するようにおもわれる.しかしながら第5指に,指骨数不足およびこれに起因する軽度の短指がもっとも多く生ずることは,Tschumiの説からは理解されにくいところである.この点の解明は指骨形成についての今後の研究にまちたい.

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