マングローブ樹木の木材構造とその高緯度への適応形態

  • 孫 強
    東北大学大学院理学研究科附属植物園
  • 鈴木 三男
    東北大学大学院理学研究科附属植物園

書誌事項

タイトル別名
  • Wood Anatomy of Mangrove Plants in Iriomote Island of Japan: a Comparison with Mangrove Plants from Lower Latitudes

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抄録

琉球列島から九州にかけては熱帯性のマングローブ樹木がもっとも高緯度まで生育している地域のひとつで,太平洋における分布北限地となっている。しかし,日本産の試料に基づいた木材構造の報告はこれまでにない。本研究ではこれらのマングローブ樹木の木材構造を記載し,同一種の熱帯域の標本に基づいた記載と比較して高緯度への適応形態を明らかにすることを試みた。材料は沖縄県西表島産のオヒルギBruguiera gymnorrhiza(ヒルギ科),ヤエヤマヒルギRhizophora stylosa(ヒルギ科),メヒルギKandelia candel(ヒルギ科),マヤプシキSonneratia alba(ハマザクロ科),ヒルギダマシAvicennia marina(ヒルギダマシ科)の5種で,いずれも自生地で幹の部分の円盤を切り取り,切片を作成するとともに組織を解離して光学顕微鏡で観察,計測した。その結果,我々の試料は熱帯域の標本で記載された木材構造とは,次の3つの点で異なっていた。第1に,オヒルギの太くて極端に短い道管要素,ヤエヤマヒルギの道管状仮道管,メヒルギの隔壁木繊維,マヤプシキの異形放射組織,ヒルギダマシの厚壁組織の微細構造など,これまでの報告には記載されていない構造が明らかになった。第2に,オヒルギの道管-柔細胞間壁孔,ヤエヤマヒルギの道管配列,メヒルギのゼラチン繊維,マヤプシキの道管穿孔,ヒルギダマシの隔壁木繊維などについての我々の観察結果はこれまでに記載されたものとは異なっていた。第3に,西表島の試料では既報告に比べて総体的に道管要素及び繊維が短く,道管直径が大きくなるなど,形質に数量的な違いが認められた。このような定性的及び定量的な形質の違いの原因は,ひとつにはこれまでの報告の記載内容が不十分であることに基づくものであり,他方には日本のマングローブ樹木が緯度の高い地域へ適応した形態を持っていることによる考えられた。

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参考文献 (18)*注記

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