キイジョウロウホトトギスとスルガジョウロウホトトギスの花部生態学

書誌事項

タイトル別名
  • Floral Biology of Tricyrtis macranthopsis Masamune and T.ishiiana (Kitagawa et T.Koyama) Ohwi et Okuyama var.surugensis Yamazaki (Liliaceae)
  • キイジョウロウホトトギスとスルガジョウロウホトトギスの花部生態学〔英文〕
  • キイジョウロウホトトギス ト スルガジョウロウホトトギス ノ カブ セイタイガ

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抄録

下垂する花を持つキイジョウロウホトトギスとスルガジョウロウホトトギスの花部生態学的研究を, 直立する花を持つ他のホトトギス属植物のそれと比較しつつ行った。これらの花は同調的に開花せず, キイジョウロウホトトギスは約5日間, スルガジョウロウホトトギスは約4日間咲いている。両種とも雄性先熟で, 葯は花被が開く前に裂開している。開花の後半に, 柱頭が成熟して雌性期となる。ポリネーターはトラマルハナバチだけで, 下方の花被片の内面に止まって, そのまま這い上がり, 外花被片の基部にある短距に分泌される花蜜な吸う。その際, 雄性期の花では葯のみに, 雌性期の花では柱頭と葯に背面が触れる。トラマルハナバチは, 通常, そのままの姿勢で頭部のみを動かして3つの蜜腺から吸蜜してから後ずさりをして出て来るので, 上方にある葯や柱頭には触れない。従って, 雌性期になっても上方の葯に大量の花粉が残っていることが多い。しかし, これらの種では, 直立する花のように花柱枝の二叉部が雌性期に葯に接近することはないので, 自動的同花受粉は起きない。これらの花では上方にある葯の大量の花粉が無駄になるが, これは花粉/胚珠の比率が高いことと, 花粉がほとんど盗まれないことにより, その影響が少ないように思える。また, 花は長命のため, 長い受粉可能期間がある。少なくともキイジョウロウホトトギスは4日間, スルガジョウロウホトトキスは3日間一様に花蜜を出すように見える。これは他花受粉型のキバナノホトトギス等が2日間しか咲いていないのと, 対照的である。Primack(1985)のモデルは, ポリネーターの訪花率が低く新しい花を作る相対コストが高いときに, 長命の花が生ずることを予測している。ジョウロウホトトギス節の植物はトラマルハナバチの訪花頻度が比較的低く, また大きな花を着けるので, この予測に合致する。花柱枝が二裂するというホトトギス属植物の特質は, 直立型の花では, 雌性期に外輪雄蕊の葯を跨いで柱頭が下方に来るという形態により, 大型ハナバチ受粉に適応しているように見える。下垂型の花ではそれと同様な意義を見い出せないが, 上方にある柱頭がほとんど受粉しないので, 柱頭面積を広く確保するという意味があるのかも知れない。直立型の花は丁字着の葯が外向裂開して, 大型のハナバチが乱暴に動いても葯はほとんど痛めつけられずに, ハチの背面に裂開面をうまく当てることができる。下垂型の花ではハチはほとんど下方の葯にしか触れないので, もし外向裂開であればその直下を通過したときにだけ効率よく花粉を受け取られるであろうが, 側裂開で葯の向きを自由に変えられる丁字着のため, 側方の葯からも花粉を拭き取られるようである。直立型の花では, 蜜腺が内花被片基部の左右の張り出しにより覆い隠されているが, ジョウロウホトトギス節の花では隠されていない。これは盗蜜者がいないこと, 下垂するため雨水が入る恐れがないことなどと関係があると思われる。以上のような花部生態学的特性から見ると, ホトトギス属では, 下垂する花は直立する型から由来したと考えるのが自然のように思える。

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