水頭症性痴呆と真性正常圧水頭症の概念 : 正常圧水頭症の分類用語上の厳密な定義と髄液短絡流量からみた難治性要因

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  • "Hydrocephalic Dementia" and "True Normal Pressure Hydrocephalus" : Proposal of Renewal of Clinical Entity of NPH and Definition in the Real Pathophysiological Aspects

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抄録

「正常圧水頭症」(NPH)は, 今や特発例を含めて外傷後, クモ膜下出血後, 髄膜炎後等の成人の水頭症を包括する概念のごとくに捉えられ, その定義に混乱した状況がみられる.Hakim & Adams(1965)の提唱で, そのterminologyにおいて, treatable dementiaの特徴ある症候学的見地をもった成人水頭症群に対して, 病態生理学上に頭蓋内圧に限定して命名したことがその混乱の最大の原因であり, 今日に至っている.近年, 持続頭蓋内圧測定の手法によって, これらの水頭症病態の多くは高圧性に分類されるべきものであることが明らかになってきた.成人の急性疾患に発生する続発性水頭症をはじめ, 多様に分類される水頭症各型は, その頭蓋内圧動態において特徴があり, 多くにそれ自体が経時的に変化するものである(Hydrocephalus chronology in adults [HCA], Oi, 1998).この頭蓋内圧動態と臨床症候の経時的変化を5期に分けstagingした分類法(HCA Stage I〜V)を用いて, 自験の特発性水頭症例10例の分析から検討した.結果においては, 治療として中圧の短絡システムが5例に, 低圧が3例に, そして圧不明が2例に用いられた.これらのうち, 2例に圧設定の変更(中圧→低圧, 低圧→中圧の各1例)がなされ, 合計7例に臨床上の改善をみた.しかしながら, それらの短絡管内髄液流量は臨症上の改善度とは無関係であり, また, 低, 中, 高圧の差は, 一個体内では有意に認められるものの, 各症例間では短絡管内流量の差として認められなかった.また, 通常の低圧短絡システムでは病態を停止せしめるに至らず, さらに進行していく成人の水頭症病態がこれらの原因不明の成人水頭症例の10例中1例に認められた.この症例では, 設置された低圧短絡システムはpatent shuntでありながら十分な短絡量を得られず, 短絡システムを超低圧化することによってのみ進行性の脳室拡大と症候を改善することができた.われわれは, 頭蓋内圧動態が正常域で変動し, かつ進行する水頭症病態こそが病態生理学上の特質を重視した水頭症分類のカテゴリーとして"真性正常圧水頭症"(true NPH)とよぶべきであることを強調した.Hakim and Adamsの提唱した特徴ある症候を重視したこれらの症例群を"hydrocephalic dementia (HD)"として水頭症分類のカテゴリーとして一括すると, この症例群は, その頭蓋内圧動態が高圧性(HCA Stage II)から正常圧化に向かう時期(HCA Stage III晩期)に分類される.多くにこれらは正常圧の水頭症とはいいがたい.水頭症のterminologyから, 真性正常圧水頭症とは, 厳密にその特徴ある頭蓋内圧動態から定義されるべきものであり, HCA Stage IVにある水頭症群であり, 必ずしもその症候は"痴呆"を含むものと同一視すべきものでない.

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