フイラリア症の疫学的研究 : 奄美大島南部の流行地における媒介蚊について

  • 山本 久
    東京大学伝染病研究所寄生虫研究部

書誌事項

タイトル別名
  • Studies on epidemiology of filariasis : Part 1. Observations on natural vectors and their bionomics in the endemic areas of Bancroftian Filariasis in southern Amami Island
  • フィラリア症の疫学的研究
  • フィラリアショウ ノ エキガクテキ ケンキュウ

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抄録

バンクロット糸状虫は広く全世界の熱帯及び亜熱帯地に流行し, わが国においても青森県以内の各地にその流行地がみられ, とくに, 南方奄美及び琉球地方にはその侵淫が著しい.吾々は1958年以来特に奄美大島を実験地に選んで, バンクロフト糸状虫症の疫学, 治療駆除対策などの研究を行なつて来たが, 今回は1961年6月末より11月まで長期間にわたり同地に滞在して, 瀬戸内町古仁屋を中心に8部落についてフィラリアの流行相, 媒介蚊及びフィラリア保虫者の駆虫の実験を行つた.これらの一連の研究のうち, この報告には特に自然界におけるフイラリア媒介蚊の問題についての調査結果をまとめたものである.今回の調査の結果, この地域から7属18種の蚊が採集されたが, 成虫の解剖結果からは, これらのうちとくにアカイエカがフィラリアの媒介に圧倒な主役を演じており, 他の種類は実際的には殆どこの媒介にあずかつていないであろうという興味ある推定がなされた.尚, 本報告でアカイエカと称する蚊は東京産のアカイエカとは明らかに異なり, 所謂ネッタイイエカ型と思われるもので, これについては別に検討を加える予定である.また, これらの蚊の発生源についても調査結果から, 特に農村部落においてはフィラリア媒介の主役を演ずる蚊は人家周辺の人工的な小溜水に発生しており, これらは何れも清掃などの一般環境衛生対策によつて容易に除去され得るものであることが明らかになつた.これまで, わが国でも本土においてはフィラリア媒介蚊に関する観察が, 望月(1919, 1921), 山田(1927), 小林(1940), 山下(1951-1953), 長花(1954-55), 外山(1956)大島(1956), 大森(1957), 藤崎(1958)らによつてなされているが, 今回の研究はこれまで報告された地域に較べては, 遙かに濃厚な流行地で行なわれたということ, このような濃厚な流行地においても唯一種の蚊がその媒介の主役を演ずるという事実が明らかにされたことは興味深い.

収録刊行物

  • 衛生動物

    衛生動物 13 (1), 23-31, 1962

    日本衛生動物学会

被引用文献 (1)*注記

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