がん医療施設の体系化に関する基礎的研究

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タイトル別名
  • A FUNDAMENTAL STUDY ON REGIONAL PLANNING IN MEDICAL FAILITIES OF THE CANCER PATIENTS
  • ガン イリョウ シセツ ノ タイケイカ ニ カンスル キソテキ ケンキュウ

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抄録

これまで宮城県がん登録の資料をもとに, 医療施設の体系化をはかる際の基本的な課題である圏域構成, 施設機能, 施設連関について考察してきた。以下に得られた結果を要約する。なお, 本資料は前に記したように, この種の資料としては全国的にみて最も信頼性のある資料であり, 得がたい貴重な資料であるが各施設からの報告, すなわち登録の精度などに関しては自ずと限界がある。従って, ここで得られた結果については, さらに施設側の調査を繰り返して補うなど今後に残された課題も多いと考えている。(1)施設利用先比を指標にして, 広域圏単位の県域構成について考察した。その結果, 広域圏域内に広い患者分布をもつ広域圏病院が所在する広域圏では, がん医療の利用も圏域内である程度のまとまりを示して, 市町村〜広域圏〜県域圏という3段階の構成をとるが, 広域圏病院をもたない広域圏では, 圏域内でのまとまりはみられず, 市町村〜県域圏という2段階の構成となる。(2)上記の結果は, 比較考察の対象として用いた一般医療の利用を示す国保調査の結果とほぼ同様であるが, がん医療の場合は前者にあっても広域圏のまとまりは一段と低下する。また国保調査では, 平坦農村地域の特性として周辺の広域圏に拡散した利用を示した登米圏でも, がん医療では利用が一定して, 市町村から県域圏の中心地へという2段階の構成をとる。(3)1), 2)と関連して, がん医療における施設利用上の特性は, 一般医療にくらべて広域的利用を示すことにあり, 高度かつ専門的病院の所在する仙台市と名取市の中心地に最終的な利用が極度に集中する。(4)しかし, 中心地仙台市との路線距離80kmを超える栗原圏と気仙沼圏では, 中心地への依存が抑えられて自己の圏域内で自足せざるを得ない状況がよみとれる。(5)次に患者誘致圏の拡がりをもとに施設型を設定し, 診断方法と治療方法を分析して, 各施設型の施設機能上の質的差異を把えた。その結果, がん医療の施設体系において果たしている各施設型の施設機能を以下のように把えることができた。がんの疑いのある者を発見して確定診断や治療のルートにのせる機能に応える診療所, 最終的な確定診断と治療を行う高次圏病院と県域圏病院, その中間にその他の病院, 地域圏病院, 広域圏病院が段階的構成を保ちながら機能し, さらに検診活動を担う対がん協会と確定診断を行なって中間的施設型を補完する「病理研」などである。これらは, がん医療の施設体系化が今日ある程度確立していることを示している。(6)最後に施設型別の連関を, 転医率と施設型移行を考察して把えた。その結果, まず施設機能の上で中間的施設ながら上位施設に近い機能をもつ広域圏病院では, 大部分の患者を直接診断治療することができる反面, 下位施設からは高度・専門的施設としてはあまり期待されずに最も少ない転医を示す。この広域圏病院をはさんで, 上位施設と下位施設で高い転医を示す。下位施設ほどそれぞれ機能段階に対応して, 上位施設への活発な転医を示すが, 高次圏と県域圏病院では転医にそれほど明確な差異はない。このように施設型別の連関は, 施設機能上の質的差異と明らかに対応した関係を有する。(7)施設型移行は, 確定診断と高度な治療を求めてと考えられるより上位の施設型への移行が大部分を占める。しかしその移行は, 施設機能の段階構成に直接沿うものではなく, 診療所から地域圏病院と県域圏病院へ, また地域圏病院から県域圏病院へという移行に代表されるように, 途中のいくつかの施設型(広域圏病院とその他の病院)を飛び超えて移行する。(8)広域圏別にみると, 県域圏病院が圏域内にあるとき, 初診からそこを利用して連関はさほど起きない。県域圏病院が圏域外にあっても比較的利用しやすい立地関係にある時, 圏域内の地域圏病院を媒介とした活発な連関が起こる。県域圏病院が圏域外にあって利用しにくくても圏域内に広域圏病院をもっとき, 比較的活発な連関が起こる。しかし県域圏病院が圏域外にあって利用しにくく, 圏域内に広域圏病院をもたないとき, 施設連関は極度に抑制される。(9)従って, 最終的に確定診断や治療を行う高度かつ専門的病院の配置が, がん医療施設体系の重要な焦点となる。宮城県では, 中心地名取市が県南部をカバーし, 中心地仙台市が県北部をカバーしているが, 栗原圏や登米圏の施設連関の低さは, 気仙沼圏をも含めた県北部におけるがん医療の中心地の存在を要請していよう。

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