構造信頼性評価における三つのパラメータを有する確率分布形

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  • A THREE-PARAMETER DISTRIBUTION USED FOR STRUCTURAL RELIABILITY EVALUATION
  • three parameter distribution used for structural reliability evaluation

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抄録

1.序 構造信頼性解析では、外力や抵抗に含まれている不確定性は一般に確率変数として表され、確率変数の分布形を仮定・決定することは構造信頼性解析および構造信頼性設計の肝要なステップとなる。確率変数の分布形を決定するために、観測データにフィットする予想分布として幅広く用いられる正規、対数正規分布などの分布形はほとんど平均値と標準偏差の二つのパラメータで決められる。一旦平均値と標準偏差が決定すると、分布形の高次モーメントも決められ、分布形の重要な特徴としての歪度などは自由に選択できないことは大きな欠点である。本研究では統計データを精度よくフィットするために平均値、標準偏差、歪度の三つのパラメータで決められる分布形を提示することを試みる。2.三つのパラメータを有する分布形の提示 三つのパラメータを有する分布形を式(1)の累積確率分布関数(CDF)および式(2)の確率密度関数(PDF)で定義する。この分布形を有する確率変数χと標準正規確率変数μの関係は式(4)と式(5)のように得られ、χの3次までのモーメントは式(6)と式(7)のように求められる。式(6)と式(7)より、χの平均値と標準偏差はそれぞれパラメータμとσ,に等しいことが分かる。歪度には平均値μと標準偏差σ,を含めず,歪度はパラメータλだけの関数である。即ち,式(1)(2)の分布形は平均値,標準偏差および歪度の三つのパラメータで決められる。パラメータλの絶対値が小さいときλと歪度α_1の間には式(8)の簡単な線形関係で表わされる。式(8)を前節の各式に代入することにより式(9)と式(10)の分布形が得られる。χの3次までのモーメントは式(14)のように求められ、χの平均値,標準偏差および歪度がそれぞれパラメータのμ,σ,α_3に等しいことが分かる。α_3>0およびα_3<0のときの標準型の確率密度関数はそれぞれFig.3とFig.4に示す。式(9)と式(10)の分布形はは直接平均値μと標準偏差σおよび歪度α_3で定義されており,パラメータを決める手間も必要としない。本研究では式(9)と式(10)を三つのパラメータを有する分布形として提示する。この分布形はα_3が0に近付くことにつれて正規分布の分布形に近付く。3.応用と考察 3.1実測データによる分布形の考察 H型鋼の断面積に関する718個のデータ及び残留応力に関する320個のデータをフィットする正規、対数正規分布および本提案分布の確率密度関数をFig.5とFig.6に示す。提案分布は正規、対数正規分布より明らかにこれらのデータをよくフィットすることが分かる。正規、対数正規分布および本提案分布に対する検定の結果をTable 1及びTable 2に示す。正規、対数正規分布より、本提案分布の適応度かなり小さい、提案分布は正規,対数正規分布より明らかにこれらのデータを良く適応していることが分かる。3.2鋼構造信頼性解析における構造特性の分布形 鋼構造信頼性解析における構造特性として、降伏応力、極限応力、ヤング率、伸び率、ポアソン比、断面積、残留応力などの統計データについて、3次までのモーメントおよび検定結果をTable 3に示す。正規分布,対数正規分布はそれぞれヤング率と伸び率の統計データによく適応し、提案分布は降伏応力、ポアソン比、断面積、残留応力などの統計データによく適応していることが判る。3.3二つのパラメータを有する分布形との比較 既存の二つのパラメータを有する分布形との比較により提案分布形の一般性を検討する。変動係数が0.1,0.2,0.3と0.4の4ケースのGamma, Weibullおよび対数正規分布の確率密度関数と提案した確率密度関数の比較をそれそれFig.7,Fig.8,Fig.9に示す。Fig.7,Fig.8,Fig.9により,ほとんどの場合では細い実線と太い破線はほぼ重なっている。即ち,α_1が大きくないとき,提案分布は既存分布を含む一般的な分布として使うことができる。3.4モーメント信頼性指標としての応用 式(12)を限界状態関数Z=G(X)の標準正規化関数として取り扱い、3次モーメント信頼性指標β_<TM>は式(21)のように得られる。式(24)の1層1スパン骨組の終局限界状態関数に対して、限界状態関数の3次までのモーメントは容易に計算でき、3次モーメント信頼性指標は2.6145として得られ、この結果が精算値にかなり近いことが判る。3.5分布形が分からない確率変数の取り入れ 分布形が分からない確率変数に対してその統計データから必ず平均値、標準偏差、歪度等のモーメントが計算できる。分布形の変わりに、式(12)と式(13)のx-uとu-x変換を用いれば、分布形が分からない確率変数をFORM/SORMに取り入れることができる。されに、式(13)のχはuの簡単な陽的関数なので、標準正規確率変数uの乱数を利用して、χの乱数も容易に発生でき、MCSにも適用できる。式(25)の限界状態関数には、χ_1,χ_2の分布形が未知であり、統計データからその3次までのモーメントが得られている。χ_1,χ_2の分布形が未知であるものの、式(12)と式(13)のχ-uとu-χ変換を用いて、FORMの解析結果はP_1=0.1032のように得られる。式(13)によりχ_1,χ_2の乱数を発生し、サンプル数が10,000で得られたMCSの結果はP_1=0.1012となる。4.まとめ 1.提案分布形は予想分布として応用することができ、二つのパラメータを有する分布形より統計データをよく対応することが判る。2.歪度が小さいときの既存のGamma、Weibull、対数正規分布などの二つのパラメータを有する分布形を代表することができる。3.三つのパラメータを有する分布形より、3次モーメント信頼性指標が容易に得られる。4.提案分布形に基づく標準正規化手法を用いて、分布形が分からない確率変数をFORM/SORM及びMCSに取り入れることができる。5.構造特性の不確定性を表す確率変数は一般に正的歪度を有する。提案分布は降伏応力、ポアソン比、断面積、残留応力などの統計データによく適応している。6.提案分布形の適用範囲は|α_3|$le;1である。

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