多板類の受精 : 系統関係を解く形態学的手がかり(<特集号>第2回国際ヒザラガイシンポジウム)

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  • Fertilization in Chitons : Morphological Clues to Phylogeny(<Special Number>the 2nd International Chiton Symposium)
  • Fertilization in chitons: Morphological clues to phylogeny

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抄録

多板綱の最大の目であるクサズリガイ目Chitonida[sensu Sirenko,1993]の共通祖先は,特異な形態の卵膜を発達させた卵と頭部が糸状に伸長した精子による独特の受精メカニズムを発達させ,この目の特徴となっている。一方,Leptochiton asellusとそのほかのサメハダヒザラガイ目Lepidopleurida[sensu Sirenko,1993]では,祖先形態である平滑な卵膜を持つ卵と突起した先体を持つ精子が遺存している。L.asellusの受精メカニズムは,精子と卵のデザインの基本的な類似性から,堀足綱やその他の軟体動物に類似したものと思われる。その受精過程は,まず先体反応により酵素が放出されてゼリー層と卵黄膜に大きな穴があけられる。その後,先体反応のプロセスにより先体の内膜が重合して伸長し,卵の微絨毛と融合する。さらに,受精丘が卵黄膜より盛り上がり,精子が,その核・中心体・ミトコンドリアおよび鞭毛の一部も含めて吸収される。サメハダヒザラガイ目から,発達した卵膜を持つ卵と縮小した先体の精子を持つクサズリガイ日へと移行するにあたって,その中間段階としての特徴をもつカギヅメヒザラガイDeshayesiella curvataとハンレイヒザラガイHanleya hanleyiは,平滑な卵膜の卵と短い核質の先端部の上に小さな先体を備えた精子を持っている。さらに,ハチノスヒザラガイ属の1種,Callochiton dentatusでは興味深いことに,カギヅメヒザラガイと同様の卵を遺していながら精子はクサズリガイ目の種と同様の特殊化をしている。その受精過程はクサズリガイ目のパターンに沿っており,微小な先体によって卵黄膜に小さな穴があけられ染色質だけが卵内に注入される。受精丘が卵黄膜下で形成されるが,精子の本体が吸収されることはない。精子の細胞小器官は精子の膜に包まれたまま卵表面に遺されているものと思われる。このことから,クサズリガイ目では中心体もミトコンドリアと同様に母系的に伝えられていることが示唆される。上記のハチノスヒザラガイ属の1種,カギヅメヒザラガイ,ハンレイヒザラガイに新たに見られるこれらの形質から,これまで考えられてきた系統関係を以下のように見直すことができる。ハリハダヒザラガイ科Callochitonidaeはクサズリガイ目全体からの姉妹群とされ,サメハダヒザラガイ目Lepidopleurida[sensu Sirenko 1993]には含まれない。さらに,サメハダヒザラガイ目は側系統群となり,クサズリガイ目はより明瞭にクサズリガイ亜目Chitoninaとケハダヒザラガイ亜目Acanthochitoninaの2つの亜目に区分することができる。

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参考文献 (36)*注記

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