短時間の人体解剖実習における工夫とその教育効果

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抄録

【目的】近年、全国の養成校中の85%程度が、見学または剖出を伴う形で人体解剖実習を行っている。しかし、その実習時間数は、約50%近くが20時間未満と短い。我々の専門学校も、平成14年度より、人体解剖実習を年間10時間実施しているが、開始当初は多くの問題点があった。そこで、それらの問題点に対して対策を講じることにより一定の改善効果を得たので報告する。<BR>【対策前人体解剖実習の概要】人体解剖実習は、1年次の9月に液浸標本観察実習(運動器系を中心とする液浸標本の観察と触察、5時間)、2月に人体解剖観察実習(剖出後の遺体観察と一部剖出、5時間)を行っている。事前指導として、実習への取り組み方や観察記録方法の説明を各実習時に2時間行っていた。全体で人体解剖実習に関わる時間は14時間であった。課題は、観察記録と感想文、及びご遺族への礼状作成であった。<BR>【問題点とその対策】開始当初の問題点とそれから3年間で取り組んだ対策について以下に述べる。(1)実習に対して学生が不安感を抱いていたため、写真・動画を使用した実習状況を詳細に説明した。(2)標本とご遺体の剖出状況を専任教員が未確認であり、事前指導でその説明ができなかったため、事前に教員が標本とご遺体の剖出状況を観察した。(3)人体解剖実習時間が短く全ての観察ができなかったため、各観察グループ内で観察部位を分担した。(4)講義進行度と人体解剖実習内容の不一致により骨格筋、神経、血管等の同定ができなかったため、主に観察する器官の講義を実習前に終了するとともに、学生自身による事前学習を促した。(5)専任教員の指導力不足があったため、人体解剖トレーニングセミナーや卒後研修会を受講した。(6)実習後の報告が稚拙であったため、事前指導時の観察記録方法の説明に前年度の観察記録を使用し説明した。また、事後指導にて報告会を開催し観察記録方法の指導を再度行った。なお、各実習の事前指導を12時間、事後指導を8時間行い、全体で人体解剖実習に関わる教育時間を50時間にした。<BR>【結果とまとめ】(1)と(2)の対策により学生の不安感が減少し、剖出状況の把握が可能となり、事前指導が充実した。(3)と(4)の対策により、事前学習が充実し、他のグループ員へ説明するための責任感が生まれた。また、骨格筋、神経、血管等の同定が可能となった。(5)と(6)の対策により、教員が観察方法を説明できるようになり、事後報告書の内容を充実させることができた。以上のことから、事前と事後の指導を充実し、教員・学生双方の取り組み姿勢を変えることで教育効果を高めることができたと考える。われわれが実施した、感想文や礼状から医学の基礎知識の向上だけではなく、人間への畏敬の念を培う精神面と専門職としての自覚につながる事が読み取れた。よって、短時間の人体解剖実習でも、学生が得るものは大きく、今後も検討を加え、より良い実習にしていきたいと考える。<BR>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2005 (0), G0975-G0975, 2006

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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