現代イボ社会における王の誕生 : 民族文化をめぐる新たな言説と歴史認識

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タイトル別名
  • The Emergence of Kings in the Contemporary Igbo Society : New Discourse on Ethnic Culture and Historical Recognition
  • ゲンダイ イボ シャカイ ニ オケル オウ ノ タンジョウ ミンゾク ブンカ オ メグル アラタ ナ ゲンセツ ト レキシ ニンシキ

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抄録

本稿の目的は、「イボ人に王あり」という文化的自画像が生まれた背景を、彼らの歴史認識との結びつきから考察することにある。初めに、王制をめぐる対立する2つの言説の概括を行うと共に、「イボ人に王あり」という新しい言説の出現が、ナイジェリアの民族対立を背景とした政治的動機を持つものであることを明らかにする。その上で、「民族の歴史」と、その民族に組み込まれた下位集団の歴史をめぐる人々の認識の変化に注目する。「民族の歴史」をめぐる議論では、1960年前後の考古学的発見を契機として、下位集団の1つ、ンリがイボ人の民族発祥の地として注目を集めるようになった。ンリは植民地化以前から王制が存在した下位集団の1つであり、この言説によって王制は民族文化として正当性を得た。その一方、イボランドの各下位集団には、1970年代の国家政策を契機として、「王」と呼ばれる人々が生まれた。彼らはもともとは行政首長に過ぎない存在である。しかし今日では、各下位集団で大きな影響力を持つに至っている。そして植民地時代から続く行政首長制の歴史によって、かつては中央集権的な権威を持たなかった下位集団の人々も、行政首長を「王」として、自分たちにとって伝統的な存在と認識するようになった。「民族の歴史」をめぐる認識の変化によって、「イボ人に王あり」という言説は、イボ人の文化的自画像としての正統性を得ている。その一方で、現代イボ社会に林立する王たちの存在によって、かつては中央集権的な権威を持たなかった地方集団の人々にとっても、新しい文化的自画像は「もっともらしさ」を持つのである。これら「民族の歴史」をめぐる認識の変化と、その下位集団における歴史認識の変化は、まったく異なったコンテクストのもとに生じた。にもかかわらず2つの変化が併存することによって、「イボ人に王あり」という新たな文化的自画像に生命力が与えられているのである。

収録刊行物

  • 民族學研究

    民族學研究 68 (3), 325-345, 2003

    日本文化人類学会

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