表在感覚刺激による脳磁界反応について

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抄録

【目的】我々は,運動制御や運動学習機序の解明に脳磁界反応を応用するために,運動誘発脳磁界に関する基礎的研究を継続している.運動遂行直後には3つの大きな磁界反応(運動誘発脳磁界第一成分,第二成分,第三成分)が観察され,運動感覚を反映しているといわれている.運動誘発脳磁界第一成分は筋紡錘の活動を反映していると考えられているが,第二成分および第三成分を発生させている感覚受容器については未だ明確でない.そこで,運動誘発脳磁界反応を解明するための前段階として,皮膚触覚刺激時における体性感覚誘発脳磁界の計測を試みたので報告する.<BR>【方法】対象は予め同意の得られた健常男性4名(31.5±7.0歳)であった.体性感覚誘発脳磁界(SEF)の計測には,306チャネル全頭型脳磁界計測装置(Neuromag, Elekta, Finland)を使用し,右示指先端の触覚刺激時における誘発脳磁界を計測した.触覚刺激には,非磁性体で作成された触覚刺激装置(KGS(株),埼玉)を利用し,点字様の4本のピン(ピン径1.3mm,ピン間隔2.4mm,ピン突出量0.7mm)を利用して,1Hzの頻度で刺激した.4本のピンは一辺が2.4mmの正方形になるように設定し,刺激持続時間(ピン突出時間)は10msecとした.また,SEFの基準として正中神経を電気刺激した際のSEFも併せて計測した.SEFの解析には刺激開始をトリガーとして刺激開始20msec前から刺激後200msecまでの期間を対象としてオンラインで300回以上の加算平均を行い,2Hzから100Hzのバンドパスフィルタ処理を行った.電流発生源の推定には等価電流双極子を用い,信頼性を示すG(Goodness of fit)値が90%以上のものを採用した.<BR>【結果】正中神経刺激により刺激後21.0±1.6msecに大きな磁界反応(N20m)が観察された.一方,触覚刺激時には,刺激開始から平均47.1±3.8msecで比較的大きな誘発反応が全例で観察され,G値は全て90%以上であった.電流発生源を推定すると,触覚刺激時の電流双極子の位置は,水平面状でN20mより僅かに後方であり,高さはN20mと同様であった.<BR>【考察】正中神経刺激によるSEFは非常に安定しており,臨床現場で頻回に利用される検査の一つである.しかし,刺激されている神経には様々な神経線維が混在しており,表在感覚や深部感覚を分離して解析することは困難である.一方,本実験で利用した皮膚触覚刺激による誘発電位は,表在感覚刺激による脳反応であり,運動誘発脳磁界と併用することにより,運動誘発脳磁界の各波形成分の意義を追求することができる.また,本研究結果は,触覚刺激による誘発脳磁界が主観的な評価になりやすい表在感覚機能の評価として応用できる可能性を示唆している.<BR>

収録刊行物

  • 理学療法学Supplement

    理学療法学Supplement 2007 (0), A0199-A0199, 2008

    公益社団法人 日本理学療法士協会

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