農地におけるシルビアシジミの生息適地の解析と保全

  • 小林 隆人
    Laboratory of Animal Ecology, Yamanashi Institute of Environmental Sciences
  • 北原 正彦
    Laboratory of Animal Ecology, Yamanashi Institute of Environmental Sciences
  • 鈴木 雄太
    Entomological Laboratory, Faculty of Agriculture, Tokyo University of Agriculture
  • 立川 周二
    Entomological Laboratory, Faculty of Agriculture, Tokyo University of Agriculture:(Present office)Association for Nature Restoration and Conservation

書誌事項

タイトル別名
  • Assessment of the habitat quality of the threatened butterfly, Zizina emelina (Lepidoptera, Lycaenidae) in the agro-ecosystem of Japan and implications for conservation

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抄録

中部日本の千葉県鴨川市の農地において,シルビアシジミZizina emelinaの生息適地の解析を行った.私達は,春季のみ雑草の刈り払いが行われる畦畔(春季のみ刈り払いの畦畔)と春季以降毎月雑草の刈り払いが行われる畦畔(毎月刈り払いの畦畔)および,牧草地に成虫個体数を調べるルートを設置した.春季のみ刈り払いの畦畔と毎月刈り払いの畦畔の成虫の個体数の間には4月初めから6月下旬にかけては有意な差は見られなかったが,6月下旬から9月初めまでは春季刈り払いの畦畔において成虫の個体数が最も多くなり,この期間は春季刈り払いの畦畔の個体数の方が毎月刈り払いの畦畔よりも有意に多くなった.しかし,9月の初めから10月下旬にかけては毎月刈り払いの畦畔において成虫の個体数は増加傾向であったのに対し,春季刈り払いの畦畔における個体数は減少し,両者の成虫の個体数の間に有意な差が見られなくなった.牧草地では8月下旬から本種が確認されるようになり,9月下旬にピークを迎え,その後は減少していった.本種の幼虫の食草であるミヤコグサの総合優占度は,春季のみ刈り払いおよび毎月刈り払いの両方の畦畔の下端部と田畑周囲の未舗装の歩道の両脇で高かった.春季のみ刈り払いの畦畔においては,ミヤコグサは5月から10月にかけて総合優先度が低下していった.これに対し,毎月刈り払いの畦畔では5月から8月までは総合優占度が低下したが,8月から9月にかけては上昇し,このことが毎月刈りの払いの畦畔における8月中旬から10月上旬までのシルビアシジミの密度の増加傾向に寄与していることが示唆された.以上の結果より,農地においてシルビアシジミの密度とその食草であるミヤコグサの優占度を高く保つには,春季刈り払いの畦畔と毎月刈り払いの畦畔を共存させることが望ましいと思われる.今回の研究では,シロツメクサの牧草地では,8月中旬から9月中旬までしかシルビアシジミの成虫を確認できなかった.この理由を明らかにすることはできなかったが,シロツメクサにおいて産卵や幼虫も確認されたのでシロツメクサの牧草地も本種の保全にとって必要であると考えられた.

収録刊行物

  • 蝶と蛾

    蝶と蛾 60 (1), 25-36, 2009

    日本鱗翅学会

参考文献 (34)*注記

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