運動誘発電位に対するミダゾラムの影響 : 運動路における作用部位

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タイトル別名
  • ウンドウ ユウハツ デンイ ニ タイスル ミダゾラム ノ エイキョウ ウンドウロ ニ オケル サヨウ ブイ
  • Effect of Midazolam on Motor Evoked Potential : Where is Effect Site of Midazolam on Motor Pathway?

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抄録

【背景】現在,脊椎・脊髄手術や胸腹部大動脈瘤手術中の脊髄機能モニタリングとして運動誘発電位(motor evoked potential;MEP)測定が広く行われているが,MEPは各種麻酔薬や筋弛緩薬の影響を受けやすく,術中のMEP導出やその解釈には麻酔に使用する薬物の影響を熟知する必要がある.ミダゾラムは周術期に前投薬や麻酔導入薬として頻用されている比較的新しいベンゾジアゼピン系薬剤であるが,MEPに対する影響については確立されていない.単発経頭蓋的電気刺激で誘発されるMEPに対するミダゾラムの影響については報告間で結果が一定しない.また,連発経頭蓋的刺激によるMEPに対する影響については報告がない.今回,申請者らはMEPにほとんど影響がないとされているケタミン麻酔下にミダゾラムを投与し,経頭蓋的5連電気刺激により前脛骨筋とひらめ筋に誘発される筋電図(MEP)に対する作用を調べた.また,膝窩部脛骨神経刺激でひらめ筋に誘発される筋電図(H波・M波)を記録することにより,ミダゾラムの運動路における作用部位についても検討した.【方法】特発性側湾症に対する後方固定手術に際し,術中脊髄機能モニタリングが必要とされ,本研究に対してインフォームドコンセントが得られた患者6名を対象とした.麻酔前投薬は投与せず,ケタミン2mg/kg,亜酸化窒素(60%)とスキサメトニウム1mg/kgにて麻酔導入し,その後は亜酸化窒素を中止してデータ取得終了まではケタミンを2mg/kg/hrで持続静注した.呼気中亜酸化窒素濃度が5%未満になったところで,MEP,H波,M波の記録およびミダゾラムの静脈内投与を開始した.経頭蓋的電気刺激および脛骨神経刺激はそれぞれDigitimer社製MultiPulse Stimulator D185と日本光電社製ニューロパックΣを用い,誘発筋電図の記録はともに日本光電社製ニューロパックΣを用いた.経頭蓋的電気刺激用皿電極は国際10-20法のC3,C4の位置に貼付し,刺激設定は刺激強度600V,0.05ms矩形波,刺激間隔2ms,5連刺激とした.脛骨神経刺激は皿電極を用いて膝窩部で行い,1msの矩形波を用いて頻度0.3Hzで刺激した.M波記録時は最大上刺激で刺激を行い,H波記録時は最大振幅が得られる刺激強度で刺激を行った.MEPの導出は両側前脛骨筋と片側ひらめ筋の体表上から,H波・M波の導出は片側ひらめ筋の体表上からシールド付皿電極を用いて行った.データ取得時の周波数帯域は20Hz〜3kHzとした.MEP,H波,M波の記録は(1)ケタミン麻酔下ミダゾラム投与前(コントロール),(2)ミダゾラム0.1mg/kg投与5分後,(3)ミダゾラム0.1mg/kg追加投与5分後,(4)フルマゼニル(ベンゾジアゼピンレセプター拮抗薬)0.2mg投与5分後の4時点にて行い,それぞれ立ち上がり潜時と振幅を測定した.全てのデータはmean±S.E.で表した.統計処理はpaired t-testを用い,p<0.05をもって有意差ありとした.データ取得後はケタミンを中止し,プロポフォールの持続静注とフェンタニル静注で麻酔を維持した.

【結果】患者の年齢は14.0±0.8歳,身長は159.0±2.9cm,体重は45.2±1.9kg,男女3人ずつであった.MEPの立ち上がり潜時はミダゾラム,フルマゼニル投与の前後で有意差は認められなかったが,振幅はミダゾラム0.1mg/kg,0.2mg/kg投与後ではそれぞれコントロールの47.2±7.1%,36,6±6.3%に有意に減少した.フルマゼニル0.2mg投与後ではコントロール値の68.8±10.3%に回復した.一方,M波とH波に関しては,立ち上がり潜時・振幅ともミダゾラム,フルマゼニルによって有意な変化は認められなかった.【考察】ミダゾラムは経頭蓋的5連電気刺激で前脛骨筋及びひらめ筋に誘発されるMEPの立ち上がり潜時を遅延させることなく,振幅のみを抑制した.その影響はフルマゼニルによって拮抗されることからベンゾジアゼピン受容体を介する作用であることが確認された.また,ミダゾラムはM波には影響しないことから,2次運動ニューロンの伝導,神経筋接合部や筋肉には影響しないことが明らかとなった.さらにミダゾラムは今回の投与量ではH波にも有意な影響を及ぼさないことから,脊髄前角細胞の活動性を含む脊髄反射弓全体の活動性には影響は少ないものと考えられる.以上のことから,ミダゾラムは2次運動ニューロンではなく,1次運動ニューロンの興奮性あるいは1次運動ニューロンから2次運動ニューロンへのシナプス伝達を抑制することによってMEPの振幅を減少させることが示唆された.

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