サルの抜髄歯を用いた歯根嚢胞の発生に関する実験的研究

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  • Experimental Periradicular Cyst Formation following Various Endodontic Procedures in Monkey Teeth Subjected to Pulpectomy

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抄録

本研究の目的は,歯根嚢胞の発生機序を病理組織学的に解明することである.マラッセ上皮残遺(Malassez epitherial rests)を多く有するとされるサルの歯に麻酔抜髄を施し,根尖歯周組織に手用リーマーやKファイルの器械的刺激,組織刺激性(起炎性)が知られる酸化亜鉛ユージノール系根管充填剤や根管死腔の化学的刺激などを加える実験手法で,マラッセ上皮残遺で裏装された嚢胞腔を有する歯根嚢胞モデルを作った.材料は4〜5歳のカニクイザル雌4頭の永久歯で,歯根完成直後の上顎の右側前歯と小臼歯舌側根,下顎の右側前歯,合計32歯32根管を用いた.全身麻酔下で被験歯には2%Xylocainの浸潤麻酔を施し,ラバーダム防湿下で根管処置を行った.歯の根管長は,術前のX線写真を参考にして電気的根管長測定で求めた.根管の拡大形成は,1)根尖孔まで,2)根尖1〜2mm手前のアンダーインスツルメンテーション,3)根尖1〜2mmを越えたオーバーインスツルメンテーションの3つの実験群からなる.根管は適宜6%次亜塩素酸ソーダと3%過酸化水素水の交互洗浄を行い,最後に滅菌生理食塩液で洗った.次に酸化亜鉛ユージノール根管充填剤のキャナルス®(昭和薬品化工)とガッタパーチャポイント(ジーシー)併用の側方加圧根管充填を施したが,過剰(溢出),適正,不足根管充填とした.一方,根管充填を行わずに根管内に滅菌綿栓の挿填または貼薬,裏層,窩洞の充填を行い,1週と4週後の成績を調べた.観察試料は20%ギ酸で脱灰後,厚さ10〜15μmのセロイジン連続切片にヘマトキシリン・エオジン染色などを施し光顕的に観察した.結果は,以下のとおりである.1. マラッセ上皮残遺と思われる上皮増殖は4週例にみられ,特に根尖孔を越えたオーバーインスツルメンテーション群の酸化亜鉛ユージノールシーラー溢出例ではすべてにみられた.2. 扁平重層上皮で裏装された歯根嚢胞腔の初期形成段階と思われる所見が4週例で明らかに認められたが,嚢胞腔内には細胞の変性・壊死傾向,液化がみられ,各種の白血球,剥離上皮細胞や針状様空隙などが観察された.3. 根尖孔を越えてオーバーインスツルメンテーションを施し,単に根管内に綿栓を挿填した1例において,根尖歯周組織に生じた小膿瘍腔を被覆するように上皮の著明な索状増殖を伴う歯根肉芽種様病変を認めた.以上から,根尖を越えた器械的刺激や化学的刺激などが関係した炎症性刺激により根尖に膿瘍腔が形成された場合,増殖した上皮索が二次的に膿瘍腔を被覆する可能性が示唆されるとともに,酸化亜鉛ユージノールシーラーの溢出部には歯根嚢胞の初期形成段階(initial cyst formation)が明らかに観察された.本実験では観察期間が短いため,その成立病変の経過・進行は今後さらに考究する必要がある.しかし感染がなく薬物的刺激が長時間持続しなければ,病変部は瘢痕治癒に向かうものと考えたい.

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参考文献 (64)*注記

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