歯根嚢胞様病変に用いられた根管充填材(ビタペックス®)の根管内異常吸収による根管再治療20年成績評価 : ほかの歯に根尖性セメント質異形成病変がみられた1例

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タイトル別名
  • A 20-year Outcome Study of Endodontic Retreatment based on Radiographic Evidence of Absorption in a Canal of Upper Central Incisor with Periapical Cystic Pathosis using a Root Canal Filling Paste (Vitapex®) : A Case of Multiple Periapical Cemental Dysplasia in Other Teeth

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抄録

1977年,石川らによって発表されたビタペックス®(ネオ製薬工業)は,水酸化カルシウム系根管充填材(剤)で抜髄や感染根管治療において永久歯,乳歯の臨床に広く応用されてきた.本剤は感染根管歯の根尖病巣内に過剰に溢出すると,明確なX線不透過性を示すが,X線写真による経過観察では生体によって吸収されて認められなくなるといわれる.また本剤の特徴として,根管への填塞操作の簡便さ,根尖到達性やX線造形性にも優れており,応用後は根尖孔部がセメント質様あるいは骨様硬組織による骨性瘢痕治癒が期待されるという.患者は,47歳の女性で上顎前歯部の211にみられた歯根嚢胞様病変を有する3歯に応用されたビタペックス®が,X線写真上において3歯とも根尖孔外(根尖病巣内)では造形性は2〜3カ月後完全に消失し,さらに4カ月後には1の根管内に造影性の強い消失傾向を認めた.後者の根管内消失例では根尖病変の拡大,歯肉の著明な発赤・腫脹・圧痛などの急性化膿性根尖性歯周炎症状を呈したため根管治療を再度試みることとなった.本論文は,歯根嚢胞様病変に応用された前医のビタペックス®根管治療法の臨床経過を明らかにするとともに,ビタペックス®のX線不透過性(造影性)の消失,吸収や応用法などの問題点について論述している.さらに⌊1の根管には6%NaOClと3%H2O2の交互洗浄により嚢胞上皮を溶解除去する非外科的歯内治療(根管治療)を施した.3カ月間のアクリノール綿栓による開放療法を経て病巣の肉芽化を図り,根管充填では根尖2〜3mm部はFR-Ca(guajacol-formaldehyde resin, 東京歯材社)を填塞し,その手前はキャナルス®(昭和薬品化工)とガッタパーチャポイント併用の側方加圧根管充填による同時積層根管充填法(root canal filling doubled simultaneously with a paste and the combined)を行った.その後20年間経過観察し,骨の再形成を伴う良好な予後成績が確認された.なお,本症例の下顎前歯部には明らかに多発性に根尖性セメント質異形成症(periapical cemental dysplasia)と思われる所見がX線像として観察された.歯内治療学的には,その初期段階において歯髄由来の根尖病変と誤診される可能性のあるX線透過像として現れるために,歯根嚢胞や歯根肉芽腫との鑑別診断を行う必要がある.諸検査の結果,多発度根尖性セメント質異形成症(multiple periapical cemental dysplasia)と診断され,その成熟の一過程と考えられた.さらに全顎の多数歯に著明な根尖セメント質の増殖肥大(hypercementosis)を示す臨床上特異な興味ある1例と考えられた.

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