カバマダラは日本列島を北進するか(2)

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タイトル別名
  • Will the Plain Tiger (Anosia chrysippus Linnaeus, 1758) [Danainae, Nymphalidae] expand its range northward in Japan? (2)
  • カバマダラ ワ ニホン レットウ オ ホクシン スル カ 2

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抄録

1.日本列島におけるカバマダラの1930〜2002年の記録を総括すると,1997年以降,九州以北で飛来地域数と個体数が激増している。2.日本における食餌植物として,ガガイモ科の9属11種があり,とくに栽培・逸出種のトウワタ,フウセントウワタ,野生種のガガイモが重要である。3.1997・1998年の激増の経過は次のように考えられる。(a)馬毛島が無人島化して,シカによる植生の荒廃がすすみ,毒草トウワタが増加,カバマダラが大発生した。(b)異常気象か,6〜7月に南西風の連続的吹き込みがあって,これが本種の移動を助けた。(c)到着地ではフウセントウワタの栽培が増加しており,各地で発生した。4.南九州の温暖地では,以前から1〜2月の幼虫や春の成虫が発見されていたが,今回も非休眠の幼虫が越冬に成功し,3〜4月に羽化することが確認された。5.2002年,春の越冬世代成虫が次世代を残し,夏世代につながることが,鹿児島市の屋外飼育とマーキング法で確かめられた。6.鹿児島市における成虫の発生は年に4〜8回程度で,夏季には幼生期が20日前後まで短縮され,早い速度で成長する。7.少数が越冬して定着の様相を見せる地域は鹿児島県本土の海岸付近から日南海岸あたりで,その原因は次のように推定される。(a)豊富な食草で,秋に多数の個体が発生し,いろいろなステージの多くの個体が越冬に入った。(b)温暖な地にある食草で,若干の中齢幼虫が冬の低温に耐えて生き残り春に羽化した。(c)越冬世代成虫は,個体数は少なく生息密度も小さかったが,交尾,産卵する能力を持っていた。(d)これらを支えたのは人為的な食草の増加で,それによりカバマダラの個体数が激増し,幸運な幼虫が越冬し,世代をつないだことになる。8.今後日本列島を北上するか否かは,人による食草の提供次第と思われる。9.越冬については,連続した低温が負の要因になっている可能性がある。10.地球温暖化と前世紀後半の漸増傾向との関わりは,今後の詳細な調査を待ちたい。

収録刊行物

  • やどりが

    やどりが 2004 (201), 48-59, 2004

    日本鱗翅学会

被引用文献 (1)*注記

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参考文献 (48)*注記

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