ウンナンシボリアゲハの再発見と新亜種の記載及びその系統的位置について

  • 三枝 豊平
    Biological Laboratory, College of General Education, Kyushu University
  • 李 伝隆
    Zoological Institute, Academia Sinica

書誌事項

タイトル別名
  • A Rare Papilionid Butterfly Bhutanitis mansfieldi (RILEY), Its Rediscovery, New Subspecies and Phylogenetic Position
  • ウンナンシボリアゲハの再発見と新亜種の記載及び系統的位置について〔英文〕
  • ウンナンシボリアゲハ ノ サイ ハッケン ト シンアシュ ノ キサイ オヨビ

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抄録

ウンナンシボリアゲハBhutanitis mansfieldi(RILEY, 1939)は,中国の雲南地方で採集を行った英国の植物学者,G.FORRESTの採集した蝶類標本の中から,M.J.MANSFIELDが見出した1♀の標本に基づいて記載された種である.本種は原記載以来全く標本がえられず,しかもこの標本には信頼にたるデータが全くついていなかった.本種はBhutanitis属の他種に比較して,翅形や翅斑がLuehdorfia属と一見類似したところがあり,しかも白く顕著なsphragis(交尾後付属物)をつけているために,MUNROE(1960),ACKERY(1975),日浦(1980)は本種とLuehdorfia属との類縁関係に触れており,本種の♂の発見に期待していた.特に日浦(1980)は,斑紋,翅形,翅脈,交尾後付属物,爪等の形態にもとついて,本種を模式種とするYunnanopapilio属を創設した.1981年春に,北海道山岳連盟は中国四川省の貢〓山(ミニヤ・コンガ山)に登山隊を派遣したが,その際同山麓の新興村の近く標高2,200mの地点で,隊員の梅沢俊,故浦光夫の両氏が全く偶然にも本種を♂♀合わせて14頭も採集した.これらの標本は次に述べる亜種的な相違をあらわしているものの,その諸形質はB.mansfieldiと完全に一致し,この種と同一種であることはほとんど疑いない.本論文では,これらの標本にもとついて新亜種の記載を行い,またその形態学的形質を近縁種やLuehdorfia属と比較することによって,本種の分類学的位置について言及する.Bhutanitis (Yunnanopapilio) mansfieldi pulchristriata subsp. nov.斑紋や翅形の詳細は原色図版で示されているので省略し,従来不明であったいくつかの形態学的特徴について記述する.複眼は大形で黒色,全面に長さ約0.3mmの黒色の細毛を密生する.触角の先方2/3では各小節の先端の下面が鋸歯状に突出する.♂交尾器:第8背板の形状は一般的,その後縁部には長く硬い黒毛をいくらか生ずるが,鱗毛状の軟毛はみられない.♂交尾器は比較的大形,tegumenはその周縁部に沿って走る円形の内面隆起線と,これにとり囲まれた十字形の内面隆起線を具える;uncusは基部がほぼ左右に二分され,基部側縁に有毛の小隆起を生じ,著しく細長く,直線状に後方へ伸びる1対のuncal processを生ずる;valvaは側面からみるとほぼ菱形で,端半部にはsetaeを生じ,内面は広くanelliferとなり,遊離骨片または膜状片としてのharpeは存在しない;valva先端部はかなり強く細まり,突起状になる;aedeagusは著しく長く,直線状,先端は鋭く尖る.♀交尾器:第8背板は腹板と完全にゆ着し,その後半部の側部は下方へ拡大し,両側縁は第8腹節の腹中線部でほぼ相接する;apophysis anteriorisを欠く;ostium bursaeは第8腹板の前縁に近く開口し,その周囲は弱く隆起し,またその後方の腹中線部は顕著な竜骨状突起となる.Sphragisは今回採集された3頭の♀のいずれにも付着しており,色彩は黄白色ないし淡黄褐色.その形状や大きさはやや変異がみられるが,いずれも交尾した状態での♂交尾器の先端部の鋳型の形状をなし,ostium bursaeの両側にあたる位置にはvalvaeの先端部に対応する1対の小孔があり,aedeagus挿入部近くには1〜2本の細くやや曲ったフィラメント状のものが突き出している.前翅長:(♂)40.0-42.5mm,(♀)41.0-43.5mm.翅開長:(♂)67.0-72.0mm,(♀)71.0-73.0mm.分布:中国四川省.完模式標本♀,中国四川省濾定県新興(2,200m),7.iv.1981,梅沢俊採集(中国科学院動物砥究所蔵).別模式標本:11♂♂2♀♀,完模式標本と同一データ,梅沢俊または浦光夫採集(中国科学院動物研究所,北海道大学農学部昆虫学教室,九州大学教養部生物学教室,国立科学博物館,大阪市立自然史博物館,五十嵐邁所蔵).新亜種♀の原名亜種♀からの相違点.1)翅表の黄色条や黄紋は新亜種の方がより減退し,細くまた小形,2)後翅裏面中空の分岐した黄色細条の前枝は新亜種では第5,6脈基部の中央近くで終る(原名亜種では第6脈基部で終わる),3)後翅第4脈の尾状突起は新亜種の方が長く,尾状突起を除く第4脈長の約3/4,尾状突起の先端は強くサジ状に拡大する,4)第3脈の尾状突起も長く,これを除いた第3脈長の1/5よりやや長い,5)後翅表第2室にも亜外縁橙色紋があらわれる.

収録刊行物

  • 蝶と蛾

    蝶と蛾 33 (1-2), 1-_24-Plate1, 1982

    日本鱗翅学会

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