喫煙による肺胞マクロファージを介した抗原特異的および非特異的なリンパ球増殖反応に及ぼす影響

書誌事項

タイトル別名
  • Inhibition of Antigen Specific and Non-Specific Lymphocyte Proliferation Mediated by Alveolar Macrophages in Cigarette Smoke-Exposed Mice
  • キツエン ニ ヨル ハイホウ マクロファージ オ カイシタ コウゲン トクイテキ オヨビ ヒトクイテキ ナ リンパキュウ ゾウショク ハンノウ ニ オヨボス エイキョウ

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抄録

喫煙は人々の健康に対して多大な影響を及ぼすことが知られている.特に,タバコ煙と直接接する呼吸器系への有害性は著しく高く,喫煙は肺癌および慢性閉塞性肺疾患等の発症に関与するだけでなく,疾患の重症度および感染リスクに影響を及ぼす因子であることが報告されている.これらの原因の1つとして,タバコ煙による肺免疫系の損傷が報告されている.肺胞マクロファージ(AM)は,自身が有する貪食,抗原提示,サイトカインおよび活性酸素の産生等の機能を発揮することで肺免疫系における防御系としての役割を果たしている.しかしながら,AMを介した抗原特異的および非特異的なリンパ球増殖反応系に対する喫煙の影響に関する報告はなく,喫煙による肺免疫系への影響に関して十分な解明がなされていないのが現状である.そこで,本研究ではHamburg II自動喫煙装置を用いて,肺の環境を一定に管理できるマウスに一定期間,一定量の主流煙を吸わせた後,AMを採取し,喫煙群のAMを介した抗原特異的および非特異的なリンパ球増殖反応への影響について検討した.タバコの喫煙は,C57BL/6マウスに1日20本,10日間,タバコ主流煙を曝露し,AMを気管支肺胞洗浄により回収した.その結果,喫煙によりAM数の増加,AMの大型化,細胞内部構造の複雑化および自家蛍光強度の増加が認められ,喫煙群マウスのAMの特徴を満たした結果が得られた.このことからAMがタバコ煙中の物質の一部を貪食し,細胞機能的に影響を受けている可能性が十分に考えられた.  AMを介した抗原特異的および非特異的なリンパ球増殖反応に及ぼす喫煙の影響について,リンパ球混合培養試験法(MLR),マイトジェンであるLipopolysaccaride (LPS) およびConcanavalinA (ConA)刺激リンパ球増殖反応系を用いて検討した.その結果,喫煙マウス群のAMは非喫煙マウス群のAMと比較してMLRおよびLPS 刺激Bリンパ球増殖反応を抑制したが,ConA刺激Tリンパ球増殖反応は抑制しなかった.また,LPSで刺激されて増殖する未熟なBリンパ球だけではなく分化した抗体産生細胞への影響に関して検討した結果,非喫煙群と喫煙マウス群のAMの間で抗体産生細胞への影響は認められなかった.これら反応系の抑制機序を解明するために,フローサイトメーターを用いてAMの細胞表面分子であるMHC Class II, B7-1,Mac-1およびCD14の陽性細胞比率,また,活性酸素であるO₂-およびH₂O₂の産生について解析し,加えてRT-PCR法を用いてサイトカインIL-1β, TNF-αおよびIL-6mRNA発現を測定した.その結果,喫煙によりMHC Class II, B7-1, Mac-IおよびCD14陽性細胞比率の減少,O₂-およびH₂O₂産生量の増加,そしてIL-1βmRNA発現の有意な低下が認められた.  喫煙によりAMの活性酸素産生が増強したことから,さらにLPS 刺激Bリンパ球増殖反応系に活性酸素消去剤,即ち,O₂-を消去するSODおよびH₂O₂を消去するcatalaseを添加してその抑制が回復するか否か検討した.非喫煙マウス群と喫煙マウス群の各々のAMを介したLPS刺激Bリンパ球増殖反応の差を回復率100%とした.その結果,SOD添加の場合,7.5U/mlで17.1%,75U/mlで20.2%の回復が認められ,catalaseの場合,6.1U/mlで52%,75U/mlで78.8%の回復が認められた.加えて,SODとcatalaseの両方を用いた場合では完全な回復が認められ,この反応系の抑制は喫煙群のAMから産生される過剰な活性酸素による可能性が示唆された.活性酸素はDNA損傷を誘導することから,喫煙によるAMのDNA 損傷への影響をさらに検討した結果,喫煙によりAMのDNA損傷が認められた.  以上より,喫煙マウス群のAMを介した抗原特異的Tリンパ球増殖反応および抗原非特異的LPS刺激Bリンパ球増殖反応の抑制には,喫煙によってAMから過剰産生された活性酸素,それに伴うDNA損傷が関わっていることが判明した.即ち,喫煙マウス群のAMを介した抗原特異的Tリンパ球増殖反応の抑制機序は,喫煙により増加した活性酸素がAM自身にDNA損傷を引き起こすことでMHC Class IIおよびB7-1,IL-1βmRNA発現の低下を誘導し,最終的にAMの抗原提示機能およびサイトカイン産生能を減少させた可能性が示唆された.また,喫煙マウス群のAMを介したLPS刺激Bリンパ球増殖反応の抑制機序は,喫煙によって増加した活性酸素がBリンパ球に対して直接的な障害を示すこと,CD14発現およびサイトカインIL-1βmRNA発現の低下による可能性が示唆された.また,喫煙マウス群のAMは未熟なBリンパ球増殖反応を抑制するが,分化した抗体産生細胞は抑制しないことが判明した.これらのことから,喫煙は肺免疫系で重要な役割を果たすAMの免疫機能を抑制して抗原特異的および非特異的なリンパ球増殖反応を低下させることを新規に証明し,このことは喫煙関連疾患の病態悪化および感染リスク増加に関与すると考えられた.

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