制度生態系の理論モデルとその経済学的インプリケーション

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  • Institutional Ecology : A Theoretical Model and Its Economic Implication
  • セイド セイタイケイ ノ リロン モデル ト ソノ ケイザイガクテキ インプリケーション

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抄録

従来のゲーム理論的制度研究では,制度変化はゲーム形式の外生的変化(North, 1990;Hurwicz, 1996) か,外生的ショックによるゲームの均衡の変化(Lewis, 1969; Aoki, 1996;Young, 1998) とみなされてきた.これらの制度観はいずれも静的で, 実際の社会で見られる内生的制度変化を取り扱うことはできない.後者のアプローチは,制度的補完性により複数の制度システムが安定的に維持されることを記述しているが,その変化はこの補完性を覆すほど大きな外生的ショックがあることにより生じるのであり,内生的変化を通じて複数制度が相対頻度を変えながら競争・共存する様態を記述できていない.本研究は,このような個体群(ポピュレーション)の構成=遺伝子(複製子としてのルール)プールの変化を伴って系統発生的に進化する制度システムを記述できるよう, リプリケータ・ダイナミクスと進化ゲーム理論の統合・拡張として制度生態系をモデル化する.制度生態系の数理モデル(Rule Ecology Dynamics,RED) では,複数ルールが行為主体に評価されながら重みを変えていくルールダイナミクスが表現される(Hashimoto and Nishibe, 2005; Hashimoto, 2006).モデルにはルール評価のための「メタルール=主体の価値意識」が導入されており, メタルールの設定次第で実現されるゲームルールダイナミクスと主体の戦略ルールダイナミクスが変わる.こうすることで,制度をゲームルール間相互作用, ゲームルール-戦略ルール間相互作用を通じて内生的に生成・変化・消滅するものと捉えることができる.これまで, 主体は最も利得の高い戦略を選択できる合理的主体を考えるなど,合理性の限界を考慮しないことが多く,限定合理性を導入する場合もその認知枠や価値は与件だったが, メタルールとして主体の認知枠や価値を表現される内部ダイナミクスを持つ主体を想定し, メゾレベルの外部ルールとしての制度とミクロレベルの主体の内部ルールとしての戦略ルールや価値意識の間の動的相互作用を分析する点に独創性がある.このモデルでは,制度変化は,ゲームの均衡,すなわち,ゲームにおけるプレイヤーによる戦略の選択(淘汰)として生じるのではなく,メタルールに基づくマルチゲームにおける多様なルールとしてのゲーム形式自体の消長(淘汰)として生じると見ている.これは,経済社会進化を個体やその戦略の淘汰よりも一段上のレベルのルールや制度の淘汰と見なす進化的アプローチを基盤としている(Hayek, 1967; 西部忠, 2005, 2006, 2010b).本稿では,このような制度生態系のモデルが経済社会の様態の記述やそれに基づく制度設計などの政策展開において,いかなる経済学的インプリケーションを持ちうるかを論じる.

identifier:https://dspace.jaist.ac.jp/dspace/handle/10119/10949

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