ケゼニゴケ複合種の研究 : 1. 台湾産ケゼニゴケの形態的・遺伝的変異

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タイトル別名
  • Biosystematic studies of the Dumortiera hirsuta complex (Hepaticae) : 1. Genetic and morphological diversity found in Taiwanese populations

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抄録

台湾南部および中央部で集団サンプリングをおこなったケゼニゴケ5集団について,染色体数の確認,外部形態の質的差異の検討,アロザイム多型,atpB-rbcL遺伝子間領域塩基配列の解析をおこない,形態的・遺伝的変異を調査した.調査した5集団のうちの3集団(太魯閣入口THT,仁愛-甫里間TNP,北大武山TPD)はすべて1倍体からなりたっていた.一方,太魯閣神秘谷集団(THS)ならびに台中烏石杭集団(TTW)の2集団においては,1倍体と2倍体が混成していた.混成集団内の1・2倍体は,生態的にも形態でも識別することはできなかった.それだけでなくTTW,THT,THS集団のケゼニゴケでは1・2倍体両者ともに,短くしっかりとした単細胞の毛が葉状体上面に散生しており,他には見られない特殊な形態を共有していた;アジアの他地域から得ていたケゼニゴケも参考にして,この毛の正体について検討したところ,表皮細胞から生じる仮根の一種であり,通常は葉状体縁や雌器托の頭部表皮(あるいは時に葉状体裏面)に生じる毛と相同であると結論づけた.しかしながら,アロザイム多型とatpB-rbcL遺伝子間領域塩基配列の解析によれば,同所的に生育する1・2倍体は異なる群に弁別され,したがって両者の間に類縁性は見いだされず,他には見られない毛を共有するという固有派生形質が意味するところは判然としなかった.そのほか,台湾中央部から得られたTNP集団では,形態(葉状体の色,質感,葉状体縁の毛の密度)が異なる2つのタイプの1倍体が集団内に混生していた.アロザイム多型にもとづく解析から両者は遺伝的にもかけ離れたものであることがわかった.そのため,それぞれを別のものとして(TNP-AとTNP-B)解析を行なった.今回調査することができた集団数は5集団にすぎないが,(1)1倍体が石灰岩にその生育が限られるものではないこと,(2)異なる倍数性の個体が混成する集団が存在すること,(3)台湾の2倍体は異質倍数性をしめすこと,(4)台湾という地理的に限定された島内においてさえケゼニゴケは複雑な分化を遂げており,1倍体に限っても,形態的・遺伝的に識別可能な,少なくとも「4種」が存在すること,が研究の結果明らかとなった.同一集団内に混成する1,2倍体はその由来が異なることがアロザイム多型と塩基配列データから示唆され,また,すでにAkiyama(1999)によって指摘されているように,台湾の2倍体が示す異質倍数性は,過去のある時点において遺伝的に異なる1倍体「種」間の交雑によって倍数体が生じたことを示唆している.このことは倍数体の起源を考える上で興味深い事実である.残念ながら,今回の調査では交雑に関わったと推定される両親"種"の特定には至らなかった.

収録刊行物

  • 蘚苔類研究

    蘚苔類研究 8 (7), 203-213, 2003

    日本蘚苔類学会

被引用文献 (1)*注記

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参考文献 (21)*注記

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