共生関係にひそむ第三者 : 花蜜を利用する酵母・細菌が変える植物-送粉者相互作用

書誌事項

タイトル別名
  • Invisible third-parties behind mutualism : a review on plant-pollinator interactions altered by nectar-dwelling yeasts and bacteria
  • キョウセイ カンケイ ニ ヒソム ダイサンシャ : カミツ オ リヨウ スル コウボ ・ サイキン ガ カエル ショクブツ-ソウフンシャ ソウゴ サヨウ

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抄録

生物間相互作用において第三者の存在がその進化的帰結を変えることが知られている。動物媒花と花粉を運ぶ送粉者の相互作用も例外ではなく、他の開花種や植食者などの第三者の影響を受ける。本稿で着目する酵母や細菌もまた、送粉者が得るべき蜜を横取りすることで花と送粉者の関係に変化をもたらすことが予想されるものの、彼らは肉眼では見えないこともあってほとんど注目されてこなかった。しかし近年の分子的手法の普及にともない、蜜内の微生物に関する興味深い知見が次々と報告され始めている。本稿の前半ではそうした成果を整理し、送粉系への影響を考察するうえで必要となる基礎知識をまとめ、1)微生物が多様な植物種の蜜から検出されていること、2)微生物のなかには様々な植物種から検出される「常連」の種が存在すること、3)微生物は花蜜に含まれる糖やアミノ酸を消費し、その濃度や成分比を変えること、4)微生物が送粉者もしくは空気を介して分布を広げる一方で、5)蜜内への微生物の定着を制限する要因が存在することを紹介する。そして後半では、微生物の侵入により植物の繁殖成功が低下する例のほか、現時点で予想される、植物・送粉者・微生物間の相互作用について私たちの見解を述べる。ここで強調したいのは、微生物が、植物と送粉者に害をもたらすだけの盗蜜者とは異なる側面を持つという事実である。すなわち、送粉者に花粉を運ばせたい植物と、送粉者に自らを運ばせたい微生物の思惑は送粉者の誘引という点において一致している。実際に、両者の協力関係を示唆する事例(微生物が生み出すアルコールや熱を報酬に送粉者を誘引している可能性)も報告されている。蜜内微生物の研究は、花形質の進化や群集の構築過程、協力関係の進化など、様々な方面に発展する可能性を秘めているものの、現時点では、たとえば「ある微生物がどのように花から花へと広まり、どの植物種を経由しながらシーズンを過ごすのか」という種ごとの生活史さえ断片的にしか見えていない状況である。本総説で示すアイデアの数々が本邦の研究者を刺激し、花と送粉者の相互作用に関する私たちの理解をさらに前進させること、ひいては見えない第三者が介入する様々な生物間相互作用系の解明に貢献することを期待している。

収録刊行物

  • 日本生態学会誌

    日本生態学会誌 64 (2), 101-115, 2014

    一般社団法人 日本生態学会

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