質的形質に見られるクラインを理解するための新たな枠組み(<特集>クライン研究を成功させるために)

  • 高橋 佑磨
    東北大学学際科学フロンティア研究所:東北大学大学院生命科学研究科
  • 鶴井 香織
    沖縄県病害虫防除技術センター:琉球産経株式会社:琉球大学農学部
  • 森本 元
    立教大学理学部:山階鳥類研究所

書誌事項

タイトル別名
  • A framework for understanding clinal variation in qualitative traits(<Feature>Essentials of clines for ecologists)
  • 質的形質に見られるクラインを理解するための新たな枠組み
  • シツテキ ケイシツ ニ ミラレル クライン オ リカイ スル タメ ノ アラタ ナ ワクグミ

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抄録

クラインは量的形質の形質値の空間変異として現れるばかりではなく、質的形質における多型の出現比(型比)の空間変異として観察されることもある。型比のクラインの多くは環境勾配に沿って現れるため、その成立機構は比較的簡単に想像できるよう感じる。すなわち、量的形質の地理的勾配と同様、環境が徐々に変化するために各型の有利さが徐々に変化し、形質の「比率」もなだらかなに変化すると解釈されることが少なくない。しかし、量的形質の地理勾配が生じるメカニズムをそのまま質的形質のケースに適用することには大きな理論的な問題がある。なぜなら、たとえば、A型とB型の2型が出現する種を想定した場合、空間に沿ってB型が有利になる環境条件からA型が有利になる条件に変化するならば、両型の適応度が完全に等しくなる平衡点を除き、どちらか一方の型の適応度が高くなるため、この状況が進化的スケールで充分な時間継続すれば、各集団には有利な型が蔓延するためである。つまり、各集団中には多型が共存し得ないので、空間に沿って平衡点を境に型比は階段状になる。このことは、逆に言えば、各集団に多型の共存を促進する機構があれば、型比のクラインが成立する可能性があることを示している。本稿では、多型の維持機構という視点から、あらゆる型比のクラインを理解するための枠組みを提案する。この枠組は、質的形質の比率のクラインにおける多型を維持する進化的原動力の重要性を明示するとともに、空間スケールの考慮の必要性を示すものである。集団遺伝学的視点を取り入れることを通じて、質的形質のクラインの成立機構の理解を正すとともに、クラインを利用した進化学・生態学研究の足場固めをしたい。

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