心筋収縮系にみる自励振動現象SPOC(交流)

書誌事項

タイトル別名
  • Auto-Oscillatory Phenomenon, SPOC, Observed in the Contractile System of Cardiac Muscle(Interdisciplinary)
  • 交流 心筋収縮系にみる自励振動現象SPOC
  • コウリュウ シンキン シュウシュクケイ ニ ミル ジレイシンドウ ゲンショウ SPOC

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抄録

筋収縮運動の仕組みは,生物物理学や生理学が最も長く取り組んできた研究テーマの一つである.筋肉は力を出して収縮(短縮)する.骨格筋は手足の運動装置として,心臓は血液を体中に循環させるポンプとして働き,そして,内臓筋は胃や血管壁として蠕動運動などを担う.運動機能という点では,骨格筋は随意筋(生物の意思で働く),心臓と平滑筋は不随意筋(自律神経に支配されて働く)と呼ばれる.一方,構造の面からは,骨格筋と心筋は横紋筋,内臓筋は平滑筋に分類される.液晶構造と対比させると,横紋筋はスメクチック(Smectic),平滑筋はネマチック(Nematic)様である.つまり,横紋筋は太いフィラメント(分子モーターであるミオシン分子の線維状重合体に,弾性タンパク質(タイチン/コネクチン)などが結合した複合体)と細いフィラメント(アクチン分子の重合体に,トロポミオシンやトロポニンという,アクチンの状態を制御するタンパク質が結合した複合体)が規則正しく配列したサルコメア(筋節)構造を作り,それが周期的に配列している.それに対して,平滑筋は2種類の筋フィラメントが一定方向に配列しているが,横紋筋のような周期性はない.このように,筋収縮系は生体液晶ともいえる.さて本稿のテーマである横紋筋収縮の仕組みに関する研究は,1954年に二人のHuxleyによって"滑り運動機構"が提唱されて以来,それを分子レベルで検証する歴史だった.数十年にわたって筋生理学的研究が主体だったが,1980年代になって,1分子生物学が勃興し,1本のアクチンフィラメント(FA)の蛍光顕微鏡による可視化や,ミオシン分子モーターを吸着したガラス基板上をFAが一方向に"滑り運動"する実験系が開発され,さらに,ミオシンやアクチンの構造決定などと相まって,ミオシン分子モーターの首振り機構(レバーアーム機構)が基本的に正しいことが証明されてきた.純粋なFAとミオシン,それにATP(アデノシン3リン酸)だけだと,FAはATPが枯渇するまで滑り続け,On(収縮)-Off(弛緩)の制御ができない.しかし1960年代にEbashiらによって,アクチン調節タンパク質のトロポニン(Ca^<2+>結合タンパク質)・トロポミオシン複合体が発見され,制御の基本的仕組みが解明された.つまり,筋収縮システムはOn-Offの2状態をとり,その制御はμM付近のCa^<2+>濃度の変化によって決まるというものである.こうして,筋収縮と制御の仕組みに関する生物物理学的研究は,分子間・分子内レベルの研究を残すのみとなったかにみえた.ところが筆者のグループは,筋収縮系(細胞膜・内部膜を除去した筋線維・筋原線維のこと)がOn-Offの中間活性化条件の広い範囲にわたって自発的に振動収縮し,サルコメア振動が互いにシンクロしたり,筋原線維に沿って伝播することを発見し,この現象を自発的振動収縮(SPontaneous Oscillatory Contraction: SPOC)と名付けた.本稿では,SPOC現象の概略を述べ,心拍における生理的意義の可能性を論じたのち,SPOCの数理モデルを概説する.

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 70 (7), 519-529, 2015-07-05

    一般社団法人 日本物理学会

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