インビームγ線核分光による新魔法数の発見(最近の研究から)

  • 武内 聡
    (現)東京工業大学大学院理工学研究科:理化学研究所仁科加速器研究センター
  • ステッペンベック デービッド
    (現)理化学研究所仁科加速器研究センター:東京大学大学院理学系研究科附属原子核科学研究センター
  • 宇都野 穣
    日本原子力研究開発機構先端基礎研究センター

書誌事項

タイトル別名
  • Discovery of New Magic Number via In-Beam γ-ray Spectroscopy(Research)
  • インビームγ線核分光による新魔法数の発見
  • インビーム γセンカク ブンコウ ニ ヨル シン マホウスウ ノ ハッケン

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抄録

電子とともに原子を構成している原子核は陽子と中性子(あわせて核子という)から成り立っている.天然には約270種類の「安定核」と呼ばれる原子核が存在し,軽い核では陽子と中性子の数はほぼ同数である.そのバランスが崩れて不安定になると,放射線を放出してより安定な原子核に変化する.このような原子核を「不安定核」と呼び,これまでに約3,000種類が知られている.原子核の性質は陽子と中性子の数によって特徴付けられるが,この数が2,8,20,28,50,82,126になると原子核は硬くなって励起しにくい状態になる.これを「魔法数」と呼んでいる.1949年メイヤーとイェンゼンは安定核の構造を説明するために,それぞれ殻構造理論を提唱し魔法数を説明した.電子の場合と同様に,核子も量子力学に従ってとびとびのエネルギーを持った軌道(殻)を占有する.軌道がそれぞれ決まった数の核子で満たされ,次の軌道までのエネルギーが大きいときに魔法数が出現することを示した.1970年代,加速器技術が発展し不安定核を対象とした実験が盛んに行われるようになった.安定核で見られた中性子数20の魔法数が軽い不安定核領域で消失していることが明らかになったが,メイヤーとイェンゼンによって提唱された殻構造理論だけでは説明できなかった.また,中性子数が過剰な酸素同位体では中性子数16が新たに魔法数となることが明らかになった.これらの事実がきっかけとなって魔法数に対する様々な実験研究・理論研究が行われるようになった.殻構造理論に適切な有効相互作用を加えることで新たな魔法数を予測することも行われている.現在では,実験と理論で様々な現象を検証して殻構造が不安定核領域で変化する原因を解き明かし,安定核と不安定核を統一的に理解することが原子核物理学で一つのテーマとなっている.原子核が魔法数を持つかどうかを調べるためには,第一励起エネルギーの測定が一つの有効な方法である.例えば^<40>Caのように魔法数を持つ原子核の場合,第一励起エネルギーは陽子数(中性子数)が同じ同位体(同中性子体)に比べて大きな値を持つ.調べたい原子核を励起しエネルギーを測定することで,魔法数を持つか判断できる.原子核を励起する方法はいくつかあるが,効率よく第一励起状態を生成する重イオンビームの破砕反応が有効である.励起エネルギーの測定は,励起状態から基底状態へ遷移する際に放出されるγ線と反応前後の原子核を識別するインビームγ線核分光法によって行う.ここで紹介する研究では,2001年に予測された中性子の魔法数34を持つとされる^<54>Caに対して破砕反応とインビームγ線核分光法を合わせた実験を行った.^<54>Caの励起状態から放出されたγ線のスペクトルには,2,043keVのエネルギーを持つピークが観測された.このエネルギーは第一励起エネルギーに相当し,周辺の不安定核と比べると有意に大きな値であることがわかった.そのため,^<54>Caでは二重閉殻構造が実現しており,陽子数20だけでなく中性子数34も魔法数になっていることがわかる.この結果は中性子数34が魔法数であるとする理論計算でよく説明され,不安定核領域に存在する^<54>Caで新しい魔法数34が出現することが明らかになった.

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 70 (7), 535-539, 2015-07-05

    一般社団法人 日本物理学会

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