トポロジカル絶縁体薄膜の構造物性(最近の研究から)

書誌事項

タイトル別名
  • Structural and Physical Properties of Topological Insulator Films(Research)
  • トポロジカル絶縁体薄膜の構造物性
  • トポロジカル ゼツエンタイ ハクマク ノ コウゾウ ブッセイ

この論文をさがす

抄録

近年注目を集めているトポロジカル絶縁体は,バルク内部はバンドギャップを持つ絶縁体であるが表面にギャップレス状態を持つ.従来のバンド絶縁体においても表面の特異性によって表面に金属状態が現れる例がいくつも知られているが,トポロジカル絶縁体の表面状態はバルクの波動関数から計算されるトポロジカル数によって規定され,表面を切り出すことで必然的に現れる.しかも従来の表面状態が不純物等によって容易に破綻するのに対して,トポロジカル表面状態は時間反転対称性という自然界の基本的な要請によって摂動から守られる.このような著しい特徴のために新しい量子相として迎えられ,新奇物性の発現やデバイス応用が期待されている.トポロジカル絶縁体の3次元物質が最初に報告されたのは2008年であり,これまでに薄膜を含む30を超す物質が見つかっている.一方,物質探索の新しい切り口として,非トポロジカル物質を低次元化や格子圧縮などによってトポロジカル物質に相転移させる方法や,ドーピングによって超伝導や強磁性を持たせる方法が試されている.本稿ではこれらに関連する話題として,薄膜化によってトポロジカル半金属に相転移するBi薄膜と,トポロジカル超伝導体として注目されているCuドープBi_2Se_3の薄膜について,X線CTR(Crystal Truncation Rod)散乱法を用いた原子レベル表界面構造解析から明らかになった構造物性について報告する.Bi_2Se_3上に成長させたBi薄膜の電子状態はバルクBiと異なることが平原らによって示され,第一原理計算によってトポロジカル相転移していることが提案された.我々は表界面を含むBi薄膜中全ての原子位置を決定して内部歪みが第一原理計算で予想された値と一致することを示し,エピタキシャル格子歪みが相転移の駆動力になっていることを証明した.一方,トポロジカル絶縁体Bi_2Se_3にCuをドープした結晶は4K以下で超伝導転移することが知られており,トポロジカル超伝導体の候補物質として注目されている.CuがBi_2Se_3層間に内挿されて電子ドープすることで超伝導体になることが広く受け入れられてきたが,高温合成したバルク結晶は不均一性が大きく様々な副相を含むことが知られている.我々はBi_2Se_3薄膜に室温でCuをドープすることで,副相の形成を抑えつつインターカレーション構造ができることを確認した.しかし十分な電子ドーピングが有りながら0.8Kまで超伝導転移しないことが分かった.この結果はインターカレーション構造が超伝導の起源であるという仮説に疑問を投じる.これらの結果はX線CTR散乱法の直接的構造解析に基づいている.伝統的には適切な構造モデルを試行錯誤的に見つけ出して最小二乗法で精密化する方法が用いられているが,我々は,ホログラフィ法を用いて未知構造部分を直接的にイメージングし,これを初期構造として反復位相回復法で薄膜中全ての原子層を再生することで,実験データから直接的に薄膜及び表界面層全ての構造パラメーターを得ることに成功している.薄膜表界面のような多数の原子を取り扱う際に曖昧さのない解析法として,表界面が舞台となる分野でのさらなる活躍が期待される.

収録刊行物

  • 日本物理学会誌

    日本物理学会誌 70 (9), 713-717, 2015-09-05

    一般社団法人 日本物理学会

関連プロジェクト

もっと見る

詳細情報 詳細情報について

問題の指摘

ページトップへ