ストレス課題によるポジティブ感情とネガティブ感情の変化

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タイトル別名
  • ストレス カダイ ニ ヨル ポジティブ カンジョウ ト ネガティブ カンジョウ ノ ヘンカ
  • Change of Positive and Negative Affect by a Stress Task

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抄録

人の感情の中に,元気で活動的で生き生きとした状態であるポジティブ感情と元気がなく消極的で自分や周りのことに否定的なネガティブ感情というものがある。本研究は,これらのポジティブ感情とネガティブ感情がストレスの影響を受けてどのように変化するかを調べた。  ポジティブ感情( PA) は,我々の幸せや幸福感,subjective‐well‐being と関連しており,ポジティブな誘意性と高い活性化( 覚醒感) によって特徴づけられた情緒的な状態のことであり,高い覚醒感をともなう快感情を指す。具体的な感情としては,幸せ,喜び,満足,興味,愛などを挙げることができる。機能的にみるとポジティブ感情は特別な行動とは結びつかず,注意を広め,全体的な認知や処理を高めると考えられている。  ネガティブ感情( NA) には,怒り,悲しみ,恐れなどがある。「怒り」は攻撃行動に伴う感情であり,「恐れ」は逃避行動に伴う感情であるというように,ネガティブ感情は行動との関係が明確である。また,機能的にみるとネガティブ感情は,注意を狭め,局所的な認知や処理を高めると考えられている。  この2つの感情は,ある感情連続次元の両端にあると観ることができるが,近年の多くの研究は,ポジティブ感情とネガティブ感情が独立していることを示唆する(Watson,Clark,& Tellegen,1988;Folkman,1997; Van Yperen,2003; 山崎,2006; 阿久津,2008a)。さらに独立説に一致して,ポジティブ感情とネガティブ感情に関与する神経系統は独立していると考えられている(Lane,Reiman,Bradley,Lang,Ahem,Davidson,& Schwartz,1997; Isen,2002)。  筆者たちはこれまでに,個人間の変動を利用した調査において,ポジティブ感情とネガティブ感情の関連が低く(r=0.28),個人内の変動を調べた場合はポジティブ感情とネガティブ感情に相関がある(r=0.52) という結果をみいだした(阿久津,2008a)。  ポジティブ感情とネガティブ感情はともに様々な心理的経験(たとえば,進学の受験に失敗する,失恋する,友人関係のストレスが高い)に影響される。様々な形で心身の健康に影響するストレスもそのひとつであろう。慢性的なストレスは,無力感やうつ状態を引き起こすため,ポジティブ感情を低下させ,ネガティブ感情を上昇させる,と推測できる。しかし,一方では,強いストレス状況でも高頻度でポジティブ感情が生じ,高い抑うつでも同時にポジティブ感情が生じることも観察されている(Viney,1986;Folkman,1997)。  これまで,ポジティブ感情とネガティブ感情に影響する要因を実験的に操作して,2つの感情がどう変化するかを個人内で調べた研究は少ない。同時に2つがどのように変化するか調べることは,ポジティブ感情とネガティブ感情を解明するひとつのアプローチであろう。そこで,本研究はストレス課題を用いて被験者にストレス反応を誘発し,それに伴いポジティブ感情とネガティブ感情の変化を調べた。もし変化するならば,ポジティブ感情とネガティブ感情は連動して変化するのか,それとも独立に変化するのかを検討した。

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