マッコウクジラの骨計測

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抄録

名護博物館の依頼により、同館所蔵のマッコウクジラ骨格標本の骨計測と主に偶蹄類(ウシ)との比較検討を行った。\n材料は性が雄で、年齢・体重不詳・体長13mで1985年に和歌山県太地町沖で捕獲されたもので、約2年間名護市屋我地海岸に埋没され、さらし骨標本とされたものである。\n計測方法は木村(1983)、DrieSch(1976)の記載を参考とし、計測器具は牛体測定器、マルチンの計測器具、巻き尺などを使用して計測をおこなった。\n1)頭蓋:マッコウクジラの頭蓋は、クジラ類に特有のテレスコーピングが顕著に現れており、鼻骨はなく鼻孔が左側に1個だけあった。\n2)下顎:マッコウクジラの下顎は、下顎体が大部分を占め単純な構造となっていた。\n3)歯:マッコウクジラの歯は、左右ともに24本から構成されており、歯はすべて同形歯型の頬歯で無根歯であった。\n4)椎骨:マッコウクジラの椎骨は頚椎7、胸椎11、腰椎8、尾椎22個から構成されており、頚椎では第二~第七までは融合して、融合頚椎を構成していた。\n5)舌骨:マッコウクジラの舌骨は舌骨肢、角舌骨、舌骨翼の3つに分かれており、どれもうすく扁平で単純であった。\n6)肋骨:マッコウクジラの肋骨は、左右ともに11本から構成されており、肋骨の幅は前方ほど発達していたが、関節面は単純な構造であった。\n7)胸骨:マッコウクジラの胸骨は、左右の胸骨体よりなっていたが、うすく扁平で、肋骨切痕などがなく単純な構造であった。\n8)血管弓:マッコウクジラの血管弓は12個より構成されており、クジラ類では血管弓はV字骨(シェブロン)とよばれ、最後位腰椎と第一尾椎の間より始まり第十二尾椎まで認められた。\n9)肩甲骨:マッコウクジラの肩甲骨は、肩峰と鳥口突起の発達がよく平行して発達していた。\n10)上腕骨:マッコウクジラの上腕骨は、太く短く形状が単純で、上腕骨頭は化骨化が不十分であったために上腕骨体と結合していなかった。\n11)前腕骨:マッコウクジラの前腕骨は、橈骨と尺骨よりなり、母指列に続く橈骨が内側を占め、小指列に続く尺骨が外側に位置していた。また、橈骨、尺骨ともに太く短く、形状が単純であった。\n12)指骨:マッコウクジラの指骨は、5本の指を持っているという点では、哺乳類の基本数を示していたが、第二指~第四指までは多数の指骨を持ち、最も多かったのは第二指で6個の指骨が観察された。また、親指よりも小指が発達している点は海生哺乳類の特徴と一致していた。\n13)腰部痕跡骨:マッコウクジラの腰部痕跡骨は、寛骨の恥骨、坐骨が退化して腸骨のみが残ったものであった。\n14)計測した今回の標本の脊椎の構成は、頚椎:7、胸椎:11、腰椎:8、尾椎:22で計48個であり、マッコウクジラは50±2個とされているので、この標本の脊椎骨数は少ないレベルであることがわかった。\n15)マッコウクジラの全長に関して、平均16m(35t)とされており、最大のクラスでは18.6mの記載もある。今回の標本の体長は13mであったこと、全身骨格の調査の結果として数個所において、骨の石灰沈着(化骨化)が不充分なことが指摘できたので、本標本の個体は成獣直前の若雄であり、繁殖活動には参加していなかったと判断された。

(正誤表あり)

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