地域福祉に関する研究の現状と課題

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  • チイキ フクシ ニ カンスル ケンキュウ ノ ゲンジョウ ト カダイ

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抄録

近年の保健・医療・福祉の潮流は、QOL(生活の質)やノーマライゼーション、ヘルスプロモーションを理念として、住民の主体性を重視した取り組みを目指すことである。保健・医療領域では、かつての公衆衛生から包括的な地域保健へとその主流が転換し、そして福祉領域では地域福祉が1つの新しい分野として地歩を固めつつ、地域保健と福祉は相互に統合化への道を歩みつつある。同時に、行政としては地方分権、規制緩和等が進展する中で、住民とのパートナーシップに基づく計画的な行財政運営が期待されている。国はこの方針のもと、市町村に「健康日本21」地方計画や地域福祉計画の策定を義務付けた。市町村は既に、老人保健福祉計画・介護保険事業計画・母子保健計画・児童育成計画・障害者計画等を策定し、事業を推進してきた経験を有してはいる。しかしながら、「健康日本21」地方計画や地域保健福祉計画では、ヘルスポロモーションや、ノーマライゼーションを理念としており、形式的な住民参加から実質的な住民参加を求めているところに1つの課題がある。とりわけ、地域福祉計画については牧里(2003)が指摘するように、「地域福祉」の理想・期待される目標とその実体が含まれ、両者が不可分な関係にあるために、わかりにくいという問題がある。換言するならば、「市町村地域福祉計画及び都道府県地域福祉支援計画策定指針(以下策定指針と略記する)」(平成14年4月1日、厚生労働省社会・援護局長通知)のいう「福祉コミュニティ」や「福祉区」さらには「福祉圏域」が何であるかという問いでもある。この問いに答えるためには、一定の福祉水準をみたす地域的単位の根拠について説明するために理論や方法論が必要である。この点については「地域」を科学し、地域事象の説明や実証に関する方法論を有する地理学からのアプローチが有用であると考える。とりわけ「福祉区」「福祉圏」については、生活圏と公共施設の立地の検討を含めた分析が必須となり、中心地理論・公地論の応用が考えられる。地理学においても、かねてから「医学地理学」があり、近年では「福祉の地理学」も進展している。しかしながら、保健・医療・福祉の統合化の流れに即した体系化については未開拓な部分もある。以上の背景と問題から、まず、地域福祉の概念とその成立過程及び意義について整理する。次いで、社会福祉の学的基盤・体系における地域福祉の位置づけと関連領域を明らかにしたうえで、日本地域福祉学会の専門誌におけるこれまでの研究の動向を概観し、地域福祉理論からみた「地域」の概念について検討する。以上の分析結果から、統合化された保健・医療・福祉政策が真に「地域」にねざした生活の質を確保し、「地域コミュニティ」を具現化するためにの方策をうる研究の基盤を得ることを目的とする。

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