日本中世における身体技法について: 身体の姿勢を中心とした試論

抄録

健康ブームと言われて久しい。最近では健康食品以外の通常食品に栄養素を特別に加味した商品が多く販売されているが、それは現代の日本人の健康に対する関心の高さを反映している。またスポーツをして健康維持をはかる人も最近多い。スポーツジムで老若男女関係なく水泳やエアロビクスなどで汗を流したり、マラソンを日課としたりする人も多い。各地でマラソン大会が開かれるとたくさんの参加者で賑わい、中には一〇〇キロマラソンといった苛酷なものに挑戦する人も少なくない。こうしたスポーツを通じて太り過ぎ、脂肪過多、腰痛、体力増強など健康維持、増強を図るわけだが、しかし最近では健康以上に体型維持を目的とする場合も多い。ジムのロッカールームの鏡の前で若者は日々鍛えられる身体をナルシスティクに眺め、中年は意志に関係なく貯まる脇腹の脂肪をつまむ。そうしたしぐさに、健康嗜好も含めて最近の自己の身体そのものへの関心の高さがうかがえる。以上の傾向はマスコミや企業戦略による過剰な健康・身体維持の情報提供による個人の身体への介入も要因の一つであるが、他に村落協同体や「家」の崩壊による現代社会の中での個人の孤立も自己や自己の身体への関心の高めているのではなかろうか。共同体なり家の中で個人は有機的に絡った存在であり、その身体は所属集団のものでもあり、個別的な一個人に属するものとしての意識は薄かったのではないかと考える。現在は心身を埋没させる共同体的集団はなく学校から家庭の中まで個人は孤立を意識し、さらには個性豊かで独立した人格が称賛され、他者と同じが否定される風潮、またそうした教育が推進される中で自己や他者のまなざしに対し過敏に意識せざるを得なくなっている。

収録刊行物

  • 奈良史学

    奈良史学 (13), 55-92, 1995-12

    奈良大学史学会

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