新しい科学技術の導入による医療専門職の役割変容に関する検討

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抄録

最近の科学技術の発達には、目を見張るものがある。インターネットや携帯電話等、以前には空想の世界であったもの、あるいは空想すらできなかったことでも、今や一般市民にまで広く普及しているものが数多く存在する。医療の現場においても、高度な検査機器や電子カルテなど有形無形を問わず、科学技術発達の恩恵を受けている。一方、これまでには考えられなかった問題やリスクも、少なからず発生している。例えば、人工呼吸器は小型化し使用が簡便になったため、急性期の患者を扱う病院内のみならず、個人宅での利用が可能になった1)2)。しかしそのために、患者の家族や患児が通う特別支援学校の教員等、医療関係者以外にも医療機器についての教育や周知が必要になった3)。また、電子カルテの普及により、医療チーム内の情報伝達についての利便性は増したが、「情報の管理」、「情報信頼性の確保」等の新たな課題が発生している4)5)。さらに、科学技術の発達速度は、我々の社会において長い年月をかけて形成されてきた、風習、習慣、倫理観等の変化速度に比して非常に速いため、医療現場や関係者には法的解釈や倫理観の相違、社会通念上の許容限度といった問題が少なからず発生している6)7)。  また、科学技術の発達は、薬の分包装置、電動車いす、移動用リフト等を実現させ、多くの反復作業についてそれらの作業に従事する薬剤師、看護師、介護福祉士等の仕事の中身や役割も変化させてきた。一定の作業を行う自立歩行ロボットや介護用ロボットも、もはや遠い未来の話ではなく、ロボット産業界がターゲットとしている様々な分野のうち、医療・福祉分野はすでに現実的なメインターゲットの1つである8)-14)。人間が行ってきた作業、業務が機械化、自動化された場合、それらに従事してきた人々、特に専門職と呼ばれるある特定分野のエキスパートについて、その役割や仕事内容はどのように変化してきたのか、そして今後どのように変化していくのであろうか。  筆者らは上記の点について、科学技術コミュニケーター15)-17)の視点から、検討を行った。現時点では科学技術コミュニケーターについての厳密な定義は存在しないが、その活動内容は幅広く種々に渡っている。その中でも主要なものの1つに、科学技術の専門家と一般市民等の非専門家が、科学技術についてのコミュニケーションを円滑に行う手助けをする役割がある。 科学技術の専門家は、これまで科学的視点のみで研究、開発を行ってきた。しかし科学技術の利用者であり、研究を支える納税者でもある非専門家の理解なくしては、これからの科学技術の発展は容易ではない。特に、社会的に影響の大きい新技術については、今後一般市民との連携を深めながら研究、開発を進めることが重要と考えられている。しかし両者の間で良好なコミュニケーションを実施するのは実は簡単なことではない。一般市民は専門家の使用する専門用語や概念になじみがないのが一般的である。また専門家は、一般市民が何を疑問に思い、何を知りたがっているかについて理解していないことも少なくない。 本論文では科学技術の発達により、旧来の医療専門職の役割が変化した経過を概観し、さらに、今後も継続する科学技術の発展に伴って、社会全体で取組むべき課題について科学技術コミュニケーターの視点から検討した。

収録刊行物

  • 医工学治療

    医工学治療 22 (2), 66-73, 2010-07

    日本医工学治療学会

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