新たに分離されたリネゾリド耐性MRSA株の分子遺伝学的解析

  • 水野 秀一
    山口大学大学院医学系研究科ゲノム・機能分子解析学分野(微生物学) 山口大学医学部附属病院検査部

書誌事項

タイトル別名
  • Molecular Genetic Analysis of Linezolid - and Methicillin - Resistant <i>Staphylococcus Aureus</i>
  • アラタニ ブンリ サレタ リネゾリド タイセイ MRSA カブ ノ ブンシ イデンガクテキ カイセキ
  • Molecular Genetic Analysis of Linezolid - and Methicillin - Resistant Staphylococcus Aureus

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抄録

山口大学医学部附属病院において,世界的に見ても報告が少ないリネゾリド(linezolid;LZD)に耐性を示すMRSAが分離された.患者は急性骨髄性白血病の既往をもち,造血幹細胞移植後にMRSAによる感染症を繰り返していた.LZD耐性MRSAはLZDの投与合計103日後の糞便から検出され,その最小発育阻止濃度は32μg/mlであった.臨床分離株において,LZD耐性菌が誘発されることを証明した報告はこれまでに見あたらない.そこで,LZD投与中に分離されたLZD耐性株と,LZD投与以前および投与中止後に同患者より分離されたMRSA株を分子遺伝学的に比較し検討した.異なる時期に分離されたMRSAの3株について,薬剤感受性の比較(antibiogram),S. aureusに特異的なspa遺伝子の配列の比較(spa typing)およびパルスフィールド電気泳動(PFGE)によりクロナリティーを解析した.その結果,LZD投与中の耐性株とLZD投与以前の株は同一クローンであり,この初期株が合計103日間のLZD長期投与により耐性化したと考えられた.また,LZD投与中止後に検出された株は別クローンであることから,LZD治療中に新たなMRSA株による感染も起こしていたことが判明した.次にLZD耐性株の変異領域を調べるために,23S rRNA domain Vの塩基配列解析を行い,耐性株がG2576T変異を持つことを見いだした.さらに分離したLZD耐性株の増殖速度は感受性株と比較して劣り,薬剤感受性試験の際の推奨された培養時間内では判定に注意を要し,培養期間の延長が必要なことが明らかとなった.これらのことから,LZD耐性株を誘発する危険性があるLZDの長期投与は謹むべきであり,その耐性株の薬剤感受性の判定には,十分な発育を確認した後の注意深い判定が必要と考えられた.

収録刊行物

  • 山口医学

    山口医学 60 (6), 223-230, 2011

    山口大学医学会

被引用文献 (1)*注記

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参考文献 (35)*注記

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