拡大する負債概念と収益および株主持分への影響

書誌事項

タイトル別名
  • カクダイスル フサイ ガイネン ト シュウエキ オヨビ カブヌシ モチブン エノ エイキョウ
  • Kakudaisuru fusai gainen to shueki oyobi kabunushi mochibun eno eikyo
  • The conceptual expansion of liabilities and its effects on revenue recognition and shareholders' equity

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抄録

type:text

第1章. 負債といえば通常は法的債務またはそれに準ずるものに限定されるわが国であるが, 退職給付債務や資産除去債務へと負債概念が拡大していることを改めて確認する。これは単に欧米会計基準への収斂のみに起因するのではない。退職給付債務会計基準が定着した背景には労働コストの後払い部分に対する新たな認識や年金数理の発達が, また資産除去債務会計の背景には原発, アスベスト等, 環境問題の深刻化があったものと思われる。実務としての会計は, 概念の発達だけではなく, 現実の要請が働かなければ前進しないからである。  第2章. 概念フレームワークを含む欧米会計基準などにおける負債は, 現象面では法的債務以外に推定的債務へ, さらには倫理的配慮へと拡大している。もっとも, 倫理的配慮がいつしか推定的・衡平法上の債務となり, それが立法行政のプロセスを経ることによって法的債務として定着したというのが実際の拡大過程であり, その背景には収益費用中心観から資産負債中心観への移行があったことは, 引当金会計の比較を通じて明らかになる。前者では負債を推定的債務をも含めて幅広く認識することが会計情報の使命であり, 後者では, 当期負担に限定して認識すれば事足りるからである。  第3章. IASB/FASBによる収益認識に係る公開草案(ED)を中心として, 製品保証等の負債認識が拡大する事例をとり上げ, わが国における民法改正草案を交錯させることによって法的背景を明らかにする。商品引渡時に潜在した欠陥については, いまの会計実務ではクレーム発生時に処理するが, EDでは引渡時に確率計算によって認識することになるからであり, それは瑕疵担保責任を債務不履行の一部とする民法改正案の考え方と呼応するからである。  第4章. MAとライツ・イッシューの対価としての自社持分証券を給付する契約はすべて持分の増加を表すとは限らない会計基準をとり上げ, 負債証券か持分証券かという形式によらず, 実態に応じて持分から負債へと表示を改める基準について批判的検討を加える。

伊藤眞教授退任記念号=In honour of Professor Makoto Ito 論文

収録刊行物

  • 三田商学研究

    三田商学研究 54 (3), 27-43, 2011-08

    慶應義塾大学出版会

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