ストレスに伴う自律神経活動の変化に対する精神鎮静法の効果−亜酸化窒素吸入鎮静法の影響について−

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タイトル別名
  • The effects of nitrous oxide inhalation to the change of autonomic nervous activities accompanying stress

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抄録

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[要旨] (1.目的) これまで,歯科治療時のストレスが循環動態や 自律神経活動に及ぼす影響については報告がされ ているが,身体的ストレスが加わった状況に対し て精神鎮静法を併用した際の,ストレスの強さや 自律神経活動への影響を検討したものはない.本 研究では,歯科治療時に伴う痛みストレスに相当 するものとして寒冷昇圧試験(CPT)を行い, 血圧,心拍数,自律神経活動の変化を測定し,亜 酸化窒素吸入鎮静法の併用が,CPT に伴う循環 動態や自律神経活動の変化にどのように影響する のかについて検討した. (2.方法) <研究1:>予備研究 対象は健康成人男性ボランティア3名とした. 被験者を仰臥位にし,安静後,血圧,心拍数およ び自律神経活動を1分間測定した.その後CPT を施行し,CPT 施行1分間の血圧,心拍数およ び自律神経活動を測定した.測定終了後,5分間 安静を保ち同様の試験を計3回繰り返した.トノ メトリー法による連続血圧と心拍数を測定した. トノメトリー法による収縮期血圧(SBP)を周 波数解析し,得られた低周波成分(SBP−LF)を 交感神経活動の指標とし,心電図のR−R 間隔を 周波数解析し,得られた高周波成分(HR−HF) を副交感神経活動の指標とした. <研究2:>CPT に伴う循環動態と自律神経活動の 変化に対する亜酸化窒素吸入の影響 対象は健康成人男性ボランティア7名とした. 被験者を仰臥位にし,安静後,100%酸素吸入を 2分間行い,血圧,心拍数および自律神経活動を 1分間測定した(Control).その後CPT を行い 血圧,心拍数および自律神経活動を1分間測定し た.亜酸化窒素濃度を20%とし10分後に血圧,心 拍数および自律神経活動を1分間測定し,その後 CPT を行い血圧,心拍数および自律神経活動を 1分間測定した.次いで亜酸化窒素濃度を30%と し10分後に血圧,心拍数および自律神経活動を1 分間測定し,その後CPT を行い血圧,心拍数お よび自律神経活動を1分間測定した. CPT に伴う収縮期血圧,拡張期血圧,心拍数, SBP−LF およびHR−HF の変化を検討するため に,Control とCPT の各測定時の平均値を用い て比較を行った.亜酸化窒素吸入に伴う収縮期血 圧,拡張期血圧,心拍数,SBP−LF およびHR− HF の変化を検討するために,Control と20%亜 酸化窒素,30%亜酸化窒素の各測定時の平均値を 用いて比較を行った.CPT に伴う収縮期血圧, 拡張期血圧,心拍数,SBP−LF およびHR−HF の変化に対する亜酸化窒素吸入の影響を検討する ために,CPT 前後の各測定値の差をCPT 前の各 測定値に対する百分率で表わし,比較を行った. (3.結果) <研究1:> CPT に伴う循環動態や自律神経活動の変動 は,CPT の5分後にはCPT 前の値まで戻った. また,CPT を2回,3回と繰り返すことによる 慣れの影響はなかった. <研究2:> 1)CPT に伴う収縮期血圧,拡張期血圧,心拍 数,SBP−LF およびHR−HF の変化 収縮期血圧,拡張期血圧およびSBP−LF は CPT により有意に上昇し,心拍数はCPT により 有意に増加した.HR−HF はCPT による有意な 変化はみられなかった. 2)亜酸化窒素吸入に伴う収縮期血圧,拡張期血 圧,心拍数,SBP−LF およびHR−HF の変化 収縮期血圧,拡張期血圧,心拍数,SBP−LF, HR−HF とも,20%,30%亜酸化窒素吸入による 有意な変化はなかった. 3)CPT に伴う収縮期血圧,拡張期血圧,心拍 数,SBP−LF およびHR−HF の変化に対す る亜酸化窒素吸入の影響 収縮期血圧,拡張期血圧,心拍数,HR−HF は,CPT,20%亜酸化窒素吸入下でのCPT,30% 亜酸化窒素吸入下でのCPT のいずれの上昇率に も有意差はなかった.SBP−LF は,20%,30% 亜酸化窒素吸入でCPT に伴うSBP−LF の上昇率 が軽減する傾向を示したが,有意な差ではなかっ た. (4.考察) 亜酸化窒素を用いた吸入鎮静法は,精神的スト レスの軽減に効果があるが,ある程度の痛みを伴 う身体的ストレスを軽減する効果はなく,痛覚を 遮断するための十分な局所麻酔効果が必要である と思われる.局所麻酔法では十分に痛覚を遮断す ることが困難であることが予想される処置におい ては,さらに強力な鎮痛効果を有する薬剤を併用 した鎮静法を考慮する必要があると考えられる.

収録刊行物

  • 松本歯学

    松本歯学 39 (1), 35-48, 2013-06-30

    松本歯科大学学会

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