中国における日本道徳教育研究の現状と展望

抄録

本報告では、中国における日本道徳教育研究のここ十年の動きを整理・紹介する。その上で、報告者自身の研究テーマを手がかりに、今後の研究の展望を示したい。明治維新以来、近代日本の道徳教育は一世紀以上の歴史を歩んできた。その間、戦前の立憲君主制下の「国民道徳」から、皇国民の錬成を目的とする戦中の道徳教育へ、そして戦後民主主義のもとで再出発した個人の尊厳を重んじる教育まで、様々な路線転換を経験した。その過程は日本の近代国家としての葛藤に満ちているといえる。その葛藤が今なお現在進行形のものであることを物語るのは、戦後の道徳教育研究をとりまく絶えない物議である。これは、学問研究の世界に止まらず、政界や教育現場に広がって、戦前・戦争の歴史、戦後の教育改革、いじめ問題や道徳教科化など教育政策の動きに対する人々の認識と感情と深く絡むものとなっている。一方、現代中国では、日本の道徳教育に関する研究は1980 年代以来次第に蓄積され、数多くの成果を生み出してきた。その中には、例えば文部科学省の『学習指導要領』、または『心のノート』などの道徳教材を素材として行われた考察や、日中道徳教育の比較研究が挙げられる。だが、それらの研究はいかなる問題意識と社会的背景のもとで生み出されたのだろうか。中国人研究者による議論の焦点と論調にはどのような特徴と限界が見られ、いかにその限界を突破できるのか。本報告では、これらの問題について論じてみたい。

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